ワインバーグの文章読本
伊豆原 弓
翔泳社 2007-11-20
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副題は「自然石構築法」。本を書くのを自然石で壁を構築するのに喩えている。統一感のある美しい壁を作るためには、色や風合いの揃った自然石を集めなければならない。不足しているところにちょうどはまる大きさも必要だ。
ひとつの壁を作るために自然石を揃える (ひとつのテーマの本を書くために材料を揃える) のはたいへんだ。特に最後が埋まらず苦労する。
しかし複数の壁を同時並行に作っているならば、そしてその後にも別の壁を作るつもりならば話は違ってくる。良い自然石を見つけたら全部持って帰り、どの壁にあうかを決めて行けば良い。文章も同じで、日常生活で気になったものはとっておき、どの作品に使うか分類していく。どこにも入らないものは次回用の分類に入れる。
もちろん素材があるだけではだめでその取捨選択、組み合わせ方が重要になる。この本もページ数で言えば多くをそこに割いている訳だが、この本の根幹にこの「自然石構築法」のコンセプトがある。
実はもっと重要なポイントがある。それが
興味のないことについて書こうと思うな。
というルールだ。
でも書きたくないものを書かないといけないことがある。そのときはどうするの?
与えられた課題を受入れ、知性と想像力を使ってそれを変えると言っている。
ここにはそれ以上のことは書かれていないが、与えられた「課題」に逸脱しない範囲で、明示的に示されていない期待を裏切るということだろうな。レポートにサスペンスタッチを入れてみたり、例示に古典を引用 (本歌取り) したりとか。さじ加減は難しいと思うが、その工夫がただのお仕事をワクワクするものに変える。
なるほどと思わせるところは色々あるのだが、そのなかで「使えない石を捨てる」という章でおもしろい概念があった。まず、あるレシピから「タマネギをバターでキツネ色になるまで炒め、タマネギは捨て、バターをとっておく」という部分をとりだし、
わたしの書くバターには、捨てたたまねぎの風味がとじこめられている。と書いているのだ。1語につき少なくとも5語を検討した上で選んで残りを捨てるという自分のルールを示し、
不思議なことに残した言葉の中には、もうそこにない言葉の風味がとじこめられているのだ。と書いている。
これはすごく分る。自分でもそういう書き方をする部分がある。その時に選んだ言葉には、採用しなかった言葉の思いが込められていて、使わなかったけど言いたいことを汲み取ってねと思うことがある。もちろん気付かれないことが多いけど、気付いてくれると本当に嬉しいものだ。自分でも後で読んで気付かないことがあるのでもっともな話ではあるのだけれど。以前書いたものを後で読んで思い出すと、それ以外の書きようがなかったんだと思うこともある。単に成長してないだけかもね。
ワインバーグの本は、プログラミング、ソフトウェア開発プロセス、問題発見/問題解決、コンサルティングというコンテキストで大学時代から読んできた。この本はそれらとはちょっと毛色が違うが、これまで多くの本を書いてベストセラーも出してきた著者のものなのでそれなりの期待を持って読んだし、それは裏切られなかったと思う。しかしこれまでの本よりも内容は薄めとは言えるだろう。