2020/08/30

日本を取り戻す、国民の手に

 「日本を取り戻す」というスローガンは、「民主党から取り戻す」という意味で捉えられている人も多いと思うが、この7年8ヶ月のことを見るともっと大きな意味があったのだと思う。

それは、「戦後民主主義で国民の手に渡った主権を、取り戻す」ということであろう。

それは安倍政権のスローガンというよりも、日本会議などの旧来の価値観をもつ人々の悲願であったと思う。その最たるものが憲法改正で、自衛隊の明文化だけでなく、天賦人権論の否定など、国家を縛るのではなく国民を縛るものにするというのが基本的な考え方であろう。

憲法自体は安倍首相の任期中には変えられなかったが、現憲法の軽視は進んだ。安法法制での解釈改憲や、「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」という憲法53常に基づく臨時国会の召集要求を無視してきた (衆議院 憲法第五十三条に基づく臨時国会召集に関する質問主意書)。

また、法律も無視し続けてきた。モリカケ、桜の会はそのプロセス中の法律違反だけでなく、それを正当化するために、文書改ざん、文書破棄も行われてきたし、東京高検黒川検事長の定年延長において法律の曲解が行われたのも記憶に新しい。

この意味で、「最悪の内閣」と言えるだろう。

そして、「最低の内閣」でもあった。国会でのヤジや、ウソ、誤りを認めず謝罪しない姿勢、はぐらかし答弁など、国会の品位を落とし続けてきた。安倍首相がやっていいんだったら他の議員もそれにならう。「ご飯論法」はその最たるものだろう。与野党の質問時間割合を変更し、大幅に与党よりにしたことで、質問よりも「首領様を讃える言葉」みたいな内容のものが多くなり、国民の声は届かない。

このように、この「最長最悪最低」首相のもとで憲法改正は達成できなかったものの、「日本を取り戻す (国民から)」は着実に進んだ。

次の自民党総裁が誰になるかわからないが、この状況を反転させ、「日本を取り戻す、国民の手に」ということを進めて欲しい。まずは福田元首相が導入した公文書管理の仕組みを再整備して欲しい。骨抜きができないように。

追記

毎日新聞に「ご飯論法」が閣僚まで広がっている指摘があった。

毎日新聞 2020/08/30 安倍政権の「大きな罪」 野党が批判する「ご飯論法」、閣僚まで広がる

今の時点でいるのではなく、マスコミは毎回適時「またはぐらかし」「これで何回目」と見出しにあげる必要があったと思う。

2020/08/29

「祝・安倍首相辞任」という心境になれない

前日、それから当日の朝まで続投の観測が流れていたので、安倍首相の辞任表明は正直なところ驚いた。

毎日新聞 2020/8/28 14:19 安倍首相、辞任の意向固める
毎日新聞 2020/8/28 17:18 安倍首相が辞意表明「職を辞することとした」潰瘍性大腸炎が再発

病気という理由は非難すべきことではないし、潰瘍性大腸炎というのは難病ということは理解できるが、このために批判がしにくい状況にある。私も病気自体を批判するつもりはないが、安倍首相のこれまでの政治姿勢を批判する上において、「病人を病気を理由に批判している」と読まれてしまうことには覚悟が必要と考えている。

本当の理由は前回と同様に政治的環境に耐えられなくなったのだと思われる。与党が国会で過半数を占める状況下での政権運営が長く続き、野党がどれだけ批判しても思う法案を通すことができ、不祥事に対する批判も自身は矢面に立たず、担当官僚に対応させてきた。国会答弁だけでなく、公文書破棄、改ざんなども自分では直接手を下さずにすませてきた。国会を解散し選挙で勝てばそれらの問題は解決したことになってしまう。今回新型コロナウイルス対応はそういう手法が使えず、これまでにない局面だったと思われる。

本来はもっと早くやめることもできたのだと思うが、やはり最長連続在任記録更新を達成したかったのではないか。その間できるだけ矢面に立たないようにということを第一に考えていたのだろう。臨時国会開会を拒否し、記者会見も行わないようにしていた理由はわかる。一方で「連続勤務」と、甘利氏など周辺の人々を使って仕事のしすぎというアピールを行ってきたが、これも今回の辞任の布石だろう。

安倍首相は、不祥事だけでなく、憲法や法律を無視/軽視する姿勢、ウソ、国会での野次など品性の低さなど、日本の国を代表するポジションに立つ人物としてふさわしくない人物だった。そういう意味では、後任の人は安倍氏よりもましな可能性は高く、今回の辞任は日本の国にとってはプラスになるといえる。しかし、本来は国民の手で審判を下せる場面は多くあったが、今やその機会はなくなってしまったと言える。今後「志半ばにして病に倒れた」という悲劇のヒーロー的な物語が語られ、批判が不十分なまま終わってしまうことを危惧する。

昔、柔道の斉藤仁選手は打倒山下泰裕選手を目指してきたが最後まで勝てず、その山下選手が引退して初めてトップに立つことができた。そのときの斉藤仁選手の無念さはいかばかりかと思う。私は今そんな心境だ。とても「祝・安倍首相辞任」という心境になれない。

追記: 「なぜ我々は安倍政権を選び続けてきたのか」を説明する記事がありました。

現代ビジネス 2020/08/29 安倍総理、辞任。日本の政治を「空洞化」させた政権の7年半

 (5ページ) 安倍政権を支えたのは、スローガンと現状維持だった。そして、有権者は、スローガンを叫びながら、実際には何も変えない内閣を選んだ。

それは、危機のときに日本がたびたびとってきた手法だ。実際の数字には目をそむけ、ドラスティックな改革を避けることで、多くの支持者は安心した。つまりは、「ゆるやかな衰退」を我々は選んだのだ。変わることを「混乱」ととらえ、変わらないことを「安定」ととらえた我々有権者は、安倍政権を「安定した政権」と評価した。

2020/08/27

STARS展

森美術館で行われている STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ に行ってきました。

ヨコハマトリエンナーレ2020と同様、ここも日時指定の鑑賞券が必要です。私は年間パスを持っているので、月曜日のお昼ごろは枠がたくさん空いていることだけ確認して、当日枠で入れるだろうという予測のもとに予約をせずに行きました。

年間パスを持っているといっても、6月に切れているので、今回の新型コロナウイルス対策で閉館していた期間の延長をしてもらいます。閉館は3か月程度だったと思いますが、5か月延長してもらえます。11月まで有効期限が伸びましたが、このSTARS展は来年1月まであるので、次の展示会も行ける、という訳ではありません。

今回 Stars という訳で、現代日本美術を代表する6名のアーティストのグループ展になっています。

  • 草間彌生
  • 李禹煥
  • 宮島達男
  • 村上 隆
  • 奈良美智
  • 杉本博司
草間彌生、村上隆、奈良美智はポピュラーですが、李禹煥、宮島達男、杉本博司はちょっと渋い選択と言えるかもしれません。「日本から世界へ」というサブタイトルがつけられていることと、作品展示だけでなく「アーカイブ展示」として、 「アーティストの活動歴」と、「海外で開催された日本の現代美術展『50展』」のコーナーがあるように、海外での発信という意味が重視されているのだと思われます。

村上隆

村上隆《Ko²ちゃん(プロジェクトKo²)》

この《Ko²ちゃん(プロジェクトKo²)》から始まって、ポップアップフラワーなどいつもの村上ワールドな訳ですが、阿吽像は初めて見ました。
 
村上隆《阿像》 村上隆《吽像》

新作で出ていた《原発を見にいくよ》は、2011年原発事故をテーマにしながら、ほんわかとした雰囲気に仕上がった作品です。男女二人 (猫型の被り物をしている) が、電車とレンタカーで原発事故後の福島に行くのですが、「SFの世界滅亡後みたいに美しい」というような歌詞 (すみません正確ではないです) でも美しいメロディーの歌が背景に流れます。今どこまで立ち入り禁止が解除されているのか分からないのですが、「立入禁止」と書かれた朽ち気味の看板があるところも通るし、放射性物質汚染水をためた大きな黒い袋がいくつも並ぶ風景も映し出されます。

最初は大騒ぎしたけれど、我々は今はもう意識していない。でも何も終わっていない。除染作業で戻れる土地は増えてきたけれど、日々汚染水は溜まっていくし、自分の自宅に戻れていない人もいる。そういう意味で続いているのだ。この作品はそれを思い出させてくれる。

この作品に関しては、みぽりんさんのnote 「Star展と東日本大震災@森美術館」にもっと詳しい説明、感想が書かれています。

李禹煥

李禹煥はこれまでグループ展の中で何回か見ていました。特に2016年に横浜美術館で行われた村上隆のスーパーフラット・コレクションに出ていた作品が印象に残っています。「もの派」ということで、作品には製作マニュアルがあって、展示会ごとに再構成される形をとります。

白い小石が敷き詰められたように見える床が印象的です。これも含めて製作マニュアルに入っているのか、それとも今回特別なのかはわかりませんでした。

李禹煥《関係項—不協和音》

直島に行った時に李禹煥美術館に行く時間が取れなかったのが残念。

草間彌生

草間彌生のセクションは、彼女の長いキャリアと作品の幅広さからグループ展は難しいと思うのですが、それでもなるべくバラエティーを出そうとする意図が感じられました。その意味ではよく考えられた選択だと思いますが、やっぱり大規模個展でないと物足りない気がします。

草間彌生《ピンクボート》《無題 (金色の椅子のオブジェ)》《トラヴェリン・ライフ》

宮島達男

宮島達男は、7セグLEDカウンターを使った作品で有名で、2011年東日本大震災以降は震災がその中心テーマになっています。

宮島達男《「時の海—東北」プロジェクト(2020東京)》

写真でぼやけている光は1桁の7セグLEDカウンターで、それぞれ異なったサイクルで数字が変わります。市民参加型の作品で、参加者「コラボレーション・アーティスト」がそれぞれ更新時間間隔を決めます。この参加者は現在も継続して募集しています。→ 「時の海-東北」プロジェクトのサイト

奈良美智

奈良美智のコーナーに入ると、奈良美智ワールドが展開します。

奈良美智《玉葱王子》など

次の部屋にあるのは、《Voyage of the Moon (Resting Moon)》。小さなデフォルメされた家の中は、原美術館にある奈良美智の部屋みたいな感じです。製作協力として graf の名前があげられていますが、そういれば横浜トリエンナーレ2005の出展作品もgrafの名前が入っていました。


杉本博司

杉本博司は、《シロクマ》など写真作品もありますが、何と言っても大画面の映像作品《時間の庭のひとりごと》が圧巻です。小田原にできた「江の浦測候所」を中心に据え、日本の歴史に思いを馳せます。江の浦測候所は気にはなっているのですが、まだ行けていません。今は完全予約制ということで、ちょっと心理的なハードルが高くなっています。

追記: 杉本博司は平成29年 (2017年) に文化功労者に選出された時のコメントの中でこう述べている (美術手帖 2017/10/24)。
文化功労者として、これからも国威発揚を文化を通じて行っていく所存でございます

私はこのコメントを読んで「幻の東京オリンピック前夜のようだ」と感じました。

MAMプロジェクト028:シオン

同時開催のMAMプロジェクト028:シオンもインパクトがあります。古着の波が襲ってくる感じ。裏に回ると十字架が刺さっています。古着は大量消費社会のメタファーだということですが、宗教的なテーストを加えることで、普段気が付かず参加している大量消費という行為の背徳性に気付かせてくれるものだと思います。
 


なお、ここにあげた写真は全て「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。

2020/08/11

ヨコハマトリエンナーレ2020 エピソード06 彗星たち 清掃アクション

 8月9日、前の投稿「ヨコハマトリエンナーレ2020 エピソード06 彗星たち」で予告していた清掃アクションに参加してきました。

アーティストの岩井優さんと一緒に、製作した仮面をつけて、横浜美術館の3階、2階からの吹き抜けの周囲を一周清掃して回ります。

最初に清掃の方法に関して簡単なレクチャーを受けます。使うのはクイックルワイパーみたいなモップ。掃くようにするのではなく、モップを床につけたまま回転させて方向を変えていくことがポイント。

二人が清掃する間、写真を撮るなどのため、サポートスタッフの皆さんが同行します。作品として写真を残すことも重要なのに、私はついついお掃除のほうに意識が行っちゃって、あまりいい写真は撮れなかったんじゃないかなと後で反省しました。気が付いたら岩井さんが先に進んでいて慌てて追いつくという場面が何度もありました。

申し込み時には忘れていたのですが、8月9日は長崎に原爆が落とされた日。清掃アクションは10:30から30分と思っていたのですが、レクチャーの時間が10分用意してあってその後30分間で11時2分にかかってしまいます。いつもは仕事中でもこっそり黙祷をしていて、今回も複数名参加するイベントだろうから隅で気づかれずにできるだろうと思っていたら、私一人が参加するだったので、予めお断りをいれました。そうしたら岩井さんも「私もやります」ということで、皆で実施することになりました。祈念式典以外で人前で黙祷したことはなかったので、私としても貴重な体験になりました。

実は、個人での清掃アクションは行ったのですが、記録写真が横指定だったのにも関わらず縦で撮っちゃって、撮り直しが必要なんですよね。

7月26日に第一回参加者のオンラインディスカッションがあったのですが、皆さん様々なところで清掃アクションを実施されていることが分かりました。そうすると自宅前でお茶を濁すのは難しそう。

追記 (2020/10/11): 

動画があげられていました。今日岩井さんと参加者のオンラインミーティングで初めて知りました。

Action 0809