2017/03/26

これぞ暁斎

暁斎の絵はたぶんいろいろなところで見ていたんだろうけど、最初にちゃんと認識したのはNHKのテレビ番組だった。それは、あまり知られていない画家を紹介するシリーズの一つで、そのときは「狂斎」の名前で記憶した。

だから、2015年に三菱一号館美術館で「画鬼・暁斎―KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」展 (PDF)があったとき、「あれ? 『狂斎』じゃなかったっけ?」と思い、検索して調べたことがある。Wikipedia 「河鍋暁斎」によると
号は「ぎょうさい」とは読まず「きょうさい」と読む。それ以前の「狂斎」の号の「狂」を「暁」に改めたものである。
とある。

三菱一号館美術館の展覧会は、NHKの番組で気になって以来初めての大型展で、堪能できた。コンドルとの関係で建築まで言及されていたのが興味深かった。

そして今、Bunkamuraで「ゴールドマンコレクションこれぞ暁斎!世界が認めたその画力」展が行われている。その内覧会に参加する機会をいただき行ってきた。ナビゲーターはブログ「青い日記帳」のTakこと中村剛士さんと、ジャーナリストのチバヒデトシさん。

三菱一号館美術館の展示は、改めて今回のBunkamuraの展示と比較すると、真面目で堅い印象になる。今回の展示が不真面目というのではなく、暁斎の「楽しさ」、「可愛い絵」が強調されていたように思う。そしてそれを支える狩野派に学んだ基礎の画力、浮世絵や山水画その他の画法への挑戦、書画会や注文に応じて絵を書き上げる多作ぶり、そしてその中でもバリエーションを生み出していく好奇心の強さ、今回のトークのおかげで、それらがよく分かった。

今回、「私の一枚」を選んで紹介してください、という指令が出ていて、いろいろ悩んだ末、結局は人気が高そうなこの「百鬼夜行図屏風」を選んでみた。


右から左に妖怪たちが行進する。しかし行き着く先には太陽が出ていて、慌てて反対方向に逃げる妖怪たち。妖怪それぞれがユーモラスな個性があって、見ていて飽きない。

これ以外にもいろいろ魅力的な絵がたくさんあった。

右は「五聖奏楽図」。磔にされるキリストを、釈迦、孔子、老師、神武天皇が囃し立てているところだという。明治初期にキリスト教が解禁されたのは日本の宗教界特に仏教にとっては大事件であったことが背景にあるが、とはいえそんな深刻さは感じられずユーモラスだ。キリストが扇子と和楽器の鈴を持っているのも面白い。

こういう絵が描けるのも、ゆるい宗教観をもつ日本ならではと思う。いやいや不平等条約が残っていた当時の後進国日本でこんな絵があることが知られたら国際問題になっていたかも。

左は「大仏と助六」。大胆な構図で、最初は近づいて見ていたので、タイトルにある「大仏」って何? と思った。

鴉の間。今回鴉図が20点近く出ている。鴉は、明治14年内国勧業博覧会で「枯木寒鴉図」で最高賞をとったように、暁斎のお気に入りのモチーフだったようだ。頼まれてささっと描くのにもよく使われた。同じように見えるがそれぞれに違いが出されていてバリエーションがある。

細かく描きこんでいるもの以外に、太い筆で大胆に描いたものも魅力的だ。特に蛙などの動物に多い。

春画コーナーもあるよ。三菱一号館美術館でもあったけど、やはり今回のが楽しい。子供の絵本にあるように、手で動かす仕掛けがついたものもある。

会期があと3週間ですので、ご注意ください。

展覧会情報
開催期間: 2017/2/23(木)-4/16(日) ※会期中無休
開館時間: 10:00-19:00(入館は18:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場: Bunkamura ザ・ミュージアム
入館料(消費税込): 一般 1,400円、大学・高校生 1,000円、中学・小学生 700円

なお、本記事の写真は特別の許可を得て撮影したものです。

2017/03/11

ソニー エレクトリカル アンサンブル

銀座のソニービルが今年3月31日までで、その後閉館になる。それにあわせて "It's a Sony 展" が行なわれている。実は会期が二つに分かれていて、前半 2月22日までがこれまでのソニーの歴史や歴代製品を辿るもので、残念ながら行きそびれてしまっていた。

今日は午後から公開シンポジウム「インタラクションを通じた信頼と共感」に行く予定だったので、午前中行こうと考えていた。「考えていた」というのは結局行っていないということだ。

最初に汐留のパナソニック汐留ミュージアムで「マティスとルオー展」を見て、それから歩いて銀座に向かっていたら、途中に資生堂ギャラリーがあって、吉岡徳仁の展示をやっているじゃないですか。これは寄らざるを得ない。

資生堂ギャラリー 吉岡徳仁 スペクトル − プリズムから放たれる虹の光線

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先にロッテリアで昼食にしてからソニービルに入った。

そしたら、8F OPUS「エレクトリカル アンサンブル -ソニーを奏でる、みんなで奏でる-」というのをやっているではありませんか! ついついふらっと ...

このイベントはこれまでの各種のソニー製品を電子楽器に仕立て上げたもの。客が自由に音を出せる (演奏する、とは言い難いな)。例えば、中高生憧れの (高くて買ってもらえない) スカイセンサー5800 は、チューニングダイヤルで周波数があうと音が出る仕組み。その前の壁面ディスプレイに音の様子がグラフィカルに示される。

#エレクトリカルアンサンブル

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そこの女性スタッフに撮ってもらいました。

その後もその女性スタッフがそれ以外の楽器も説明してくれたので結局全部体験した。

その後、アーティストOpen Reel Ensemble の演奏スペシャルムービーが流されてそれも全部見てきた。

Open Reel Ensemble #エレクトリカルアンサンブル

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という訳で "It's a Sony 展" 第2部は見れなかったのでした。まだ3月31日までチャンスがある! ... って大丈夫かな。


イノベーションの作り方

3月7日、ドコモ・イノベーションビレッジ (公式ページFacebook)が主催する勉強会「イノベーション創出法を学ぶ。2名の専門家によるイノベーション創出に向けた整理、思考法の解説」に参加してきました。

第1部「イノベーションマップから始めるアウトカムデザイニング」は、イノベーションとは何かから始まり、イノベーションを分類整理したイノベーションマップを紹介、これを用いてどうイノベーションを創出するかというお話。

イノベーションは、持続的イノベーションと破壊的イノベーションに分けられる。それぞれはさらに2つに分類され、全体で4つの類型が得られる。

  • 持続的イノベーション: 今までの製品、サービスをよりよくしたもの。既存顧客を対象にする。
    • 漸進的イノベーション
    • 飛躍的イノベーション - アナログレコードからCD
  • 破壊的イノベーション: 新しい価値を提供する。新しい顧客を対象にする。
    • ローエンド型破壊 - QBハウず、イケア、ユニクロ
    • 新市場型破壊 - ウォークマン、ルンバ
また、変化を起こす対象に関しても3つに分けられる。
  • プロセス・イノベーション: やり方を変える
  • サービス/プロダクト・イノベーション: 製品、サービスを変える (通常よく言われるイノベーション)
  • メンタルモデル・イノベーション: 見方を変える
メンタルモデル・イノベーションとしては、ポカリスウェット (スポーツのシーンでなくともスポーツドリンクを飲む)、デビアスのスィートテン・ダイヤモンド (結婚10年目でジュエリーを買おうという意識付け) の例が出された。

イノベーションの類型4つと、対象3つをマトリクスにしたものがイノベーションマップである。この各セルにアイデアを埋めていく。何もないところからアイデアを出すのは難しいので、このように「プロセスに飛躍的な変化を加えると何ができるだろう」といった制約を与えてアイデア出しをするのは有効に思える。

この時に考えないといけないのは「次に生活者に提供すべきアウトカムは何か?」を常に考えるということだ。「アウトプット」が作り出したものに対して、「アウトカム」はその効果である。


第2部は「脳機能の働きからみたイノベーション創出の思考法」。「脳機能」というととっつきにくいが、ざっくりまとめる。

スタノビッチらによる二重過程説では、脳には、直感的思考プロセスを司るSystem 1と分析的な認知を司るSystem 2 の働きがあるとする。System 1は無意識的で連想的な学習で身についたプロセス、System 2 は意識的な学習で身につけるもの。これを繰り返し習慣化するとSystem 1の知識として身につく (考えずに行動できる)。人間の行動は、System 1からの無意識の提案を、System 2 が監視し暴走を抑えることによって成立している。System 1の思考過程は低エネルギーで駆動されるので、人間の進化過程で得た「エネルギー摂取を最大化、支出を最小化」というストラテジーにより、80~95%の行動はSystem 1によってなされていると考えられる。

新しい製品、サービスを出す時に、こういう人間の思考原理を考慮しなければならない。できるだけ意思決定をしなくてすむように、わかりやすく簡単なものが求められる。新しい製品・サービスを導入するのに、生活資源 (お金、時間、空間、能力) を必要とするので、それと生活目的のバランスを考えないといけない。目的に必要な資源が多すぎると、人はそれに取り組まない。

これを聞いて、自動車のことを考えていた。自動車は高いし、使う上においては自動車学校へ通って免許を取らなければいけない。かなり大きな資源を使うものだが、それに見合う目的があったんだよなと思う。自分の行動範囲を大きく広げることができたし、なにより自由度が上がった。女性にモテるための必須条件であったようにも思う (気のせいかも)。今は相対的に効果が薄れてきて、売れなくなるよなと思う。

脳機能を持ち出さなくとも、ここらあたりの考え方は理解ができると思う。