アジアセンターイベント情報 2020.02.01 第31回東京国際映画祭・国際交流基金アジアセンター特別賞受賞 『武術の孤児』上映&ホアン・ホアン監督トーク
この映画は2018年の第31回東京国際映画祭に出品され、国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞したもの。賞金はない代わりに日本に短期滞在ができます。それは次の映画のロケハンや、映画関係者との交流に使って良いということです。行定監督や山下敦弘監督との交流などを行ったとそうです。今回はその来日に合わせてイベントが企画されました。
映画は、上記リンクに紹介がありますが、ユーモラスなエピソードと美しい自然の情景が織り込まれた楽しいものでした。主人公国語教師が女医さんのシャワーシーンを想像するところ、生徒の興味を引くために授業で出したダジャレが受けないところなどクスッと来ます。ただすっきりした結末 (問題が解決した等) を期待していたので、え?これで終わり?と感じました。
トークショーでは、ホアン・ホアン監督とともに共同プロデューサーのホウ・シャオドン氏、スタッフのジョウ・シャオラン氏も登壇され、石坂健治氏が質問しそれに答えるという形で進みました。ジョウ・シャオラン氏は「スタッフ」とありますが、ホアン・ホアン監督の奥さんで、助監督、脚本家でもあります。
舞台となった寄宿制の武術学校は中国にたくさんあって、特に少林寺のある河南省には100以上あるそうです。 この映画が1990年代という設定にしてあるのも、1980年代に少林寺映画があり、武術学校に入るブームがあったからだそうです。なお、今は問題児の矯正施設みたいになっているとのことで、石坂氏も「戸塚ヨットスクールみたいなもんだな」とつぶやいていました。
銀座メゾンエルメスのル・ステュディオで見た『ジョッキーを夢見る子供たち』を思い出させます。そちらのほうは、子ども達の騎手養成学校での日常生活を描きながらも着実に成長していく姿を追っていて、その意味では随分違うものです。
制作費に関しての話が興味深かった。中国政府から得た100万人民元をベースに、スポンサーを集めて全体で500人民元かかったということです。これは日本円で約7800万円。日本のインディーズ作品は一桁少ない予算とのこと。行定監督か山下監督かその両方から、その金額があれば3本撮れると言われたそうです。そういえば「カメラを止めるな」の制作費が300万円ほどだというのも話題になっていましたね。それだと26本撮れるよ。
新人にしては多いように見えるけど、中国ではそれくらいかかってしまう、その理由は主に、中国では物価が高いということと、スタッフの非効率な働き方によるとのことでした。石坂氏は「日本の映画界がブラックな側面もあるということだろうけど」と補足されていました。定時になったらさっさと帰ってしまうとか、そういうことだろうなと理解しました。
会場から検閲に関する質問があり、それも制作費が高くなる一因ということです。出したいシーンが検閲に引っかかったときのために別のテイクも用意しておかなければいけない、というのはなるほどと思いました。
先のリンクの映画の紹介では「中国武術への愛が感じられる作り」と書かれていますが、勉強に興味がない子ども達が描かれ、国語教師が最後に「武術なんか何も役に立たない」と爆発するシーンがあるなど、石坂氏も「これは反武術映画としてみることができる」とコメントしていました。ホアン・ホアン監督は「複雑な気持ち。父が軍の体育部門の責任者で自分を体育学校に入れたが、自分はそれを嫌いだった。 その後遊びとしてサッカーをやったら楽しかった。 武術に関しても愛憎混じった感情」と語っていました。学校になじめずいつも脱走する生徒ツイシャンに自分を重ねているんだなと思いました。
中国映画の現状の一部を知ることができて興味深いイベントでした。