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2020/08/27

STARS展

森美術館で行われている STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ に行ってきました。

ヨコハマトリエンナーレ2020と同様、ここも日時指定の鑑賞券が必要です。私は年間パスを持っているので、月曜日のお昼ごろは枠がたくさん空いていることだけ確認して、当日枠で入れるだろうという予測のもとに予約をせずに行きました。

年間パスを持っているといっても、6月に切れているので、今回の新型コロナウイルス対策で閉館していた期間の延長をしてもらいます。閉館は3か月程度だったと思いますが、5か月延長してもらえます。11月まで有効期限が伸びましたが、このSTARS展は来年1月まであるので、次の展示会も行ける、という訳ではありません。

今回 Stars という訳で、現代日本美術を代表する6名のアーティストのグループ展になっています。

  • 草間彌生
  • 李禹煥
  • 宮島達男
  • 村上 隆
  • 奈良美智
  • 杉本博司
草間彌生、村上隆、奈良美智はポピュラーですが、李禹煥、宮島達男、杉本博司はちょっと渋い選択と言えるかもしれません。「日本から世界へ」というサブタイトルがつけられていることと、作品展示だけでなく「アーカイブ展示」として、 「アーティストの活動歴」と、「海外で開催された日本の現代美術展『50展』」のコーナーがあるように、海外での発信という意味が重視されているのだと思われます。

村上隆

村上隆《Ko²ちゃん(プロジェクトKo²)》

この《Ko²ちゃん(プロジェクトKo²)》から始まって、ポップアップフラワーなどいつもの村上ワールドな訳ですが、阿吽像は初めて見ました。
 
村上隆《阿像》 村上隆《吽像》

新作で出ていた《原発を見にいくよ》は、2011年原発事故をテーマにしながら、ほんわかとした雰囲気に仕上がった作品です。男女二人 (猫型の被り物をしている) が、電車とレンタカーで原発事故後の福島に行くのですが、「SFの世界滅亡後みたいに美しい」というような歌詞 (すみません正確ではないです) でも美しいメロディーの歌が背景に流れます。今どこまで立ち入り禁止が解除されているのか分からないのですが、「立入禁止」と書かれた朽ち気味の看板があるところも通るし、放射性物質汚染水をためた大きな黒い袋がいくつも並ぶ風景も映し出されます。

最初は大騒ぎしたけれど、我々は今はもう意識していない。でも何も終わっていない。除染作業で戻れる土地は増えてきたけれど、日々汚染水は溜まっていくし、自分の自宅に戻れていない人もいる。そういう意味で続いているのだ。この作品はそれを思い出させてくれる。

この作品に関しては、みぽりんさんのnote 「Star展と東日本大震災@森美術館」にもっと詳しい説明、感想が書かれています。

李禹煥

李禹煥はこれまでグループ展の中で何回か見ていました。特に2016年に横浜美術館で行われた村上隆のスーパーフラット・コレクションに出ていた作品が印象に残っています。「もの派」ということで、作品には製作マニュアルがあって、展示会ごとに再構成される形をとります。

白い小石が敷き詰められたように見える床が印象的です。これも含めて製作マニュアルに入っているのか、それとも今回特別なのかはわかりませんでした。

李禹煥《関係項—不協和音》

直島に行った時に李禹煥美術館に行く時間が取れなかったのが残念。

草間彌生

草間彌生のセクションは、彼女の長いキャリアと作品の幅広さからグループ展は難しいと思うのですが、それでもなるべくバラエティーを出そうとする意図が感じられました。その意味ではよく考えられた選択だと思いますが、やっぱり大規模個展でないと物足りない気がします。

草間彌生《ピンクボート》《無題 (金色の椅子のオブジェ)》《トラヴェリン・ライフ》

宮島達男

宮島達男は、7セグLEDカウンターを使った作品で有名で、2011年東日本大震災以降は震災がその中心テーマになっています。

宮島達男《「時の海—東北」プロジェクト(2020東京)》

写真でぼやけている光は1桁の7セグLEDカウンターで、それぞれ異なったサイクルで数字が変わります。市民参加型の作品で、参加者「コラボレーション・アーティスト」がそれぞれ更新時間間隔を決めます。この参加者は現在も継続して募集しています。→ 「時の海-東北」プロジェクトのサイト

奈良美智

奈良美智のコーナーに入ると、奈良美智ワールドが展開します。

奈良美智《玉葱王子》など

次の部屋にあるのは、《Voyage of the Moon (Resting Moon)》。小さなデフォルメされた家の中は、原美術館にある奈良美智の部屋みたいな感じです。製作協力として graf の名前があげられていますが、そういれば横浜トリエンナーレ2005の出展作品もgrafの名前が入っていました。


杉本博司

杉本博司は、《シロクマ》など写真作品もありますが、何と言っても大画面の映像作品《時間の庭のひとりごと》が圧巻です。小田原にできた「江の浦測候所」を中心に据え、日本の歴史に思いを馳せます。江の浦測候所は気にはなっているのですが、まだ行けていません。今は完全予約制ということで、ちょっと心理的なハードルが高くなっています。

追記: 杉本博司は平成29年 (2017年) に文化功労者に選出された時のコメントの中でこう述べている (美術手帖 2017/10/24)。
文化功労者として、これからも国威発揚を文化を通じて行っていく所存でございます

私はこのコメントを読んで「幻の東京オリンピック前夜のようだ」と感じました。

MAMプロジェクト028:シオン

同時開催のMAMプロジェクト028:シオンもインパクトがあります。古着の波が襲ってくる感じ。裏に回ると十字架が刺さっています。古着は大量消費社会のメタファーだということですが、宗教的なテーストを加えることで、普段気が付かず参加している大量消費という行為の背徳性に気付かせてくれるものだと思います。
 


なお、ここにあげた写真は全て「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。

2016/01/12

村上隆と狩野一信と藤田嗣治

今森美術館で行われている村上隆展 (村上隆の五百羅漢図展) の関連イベント椹木野衣氏の講演を聞いてきました。

トーク「大震災、五百羅漢図と村上隆」

題名の通り、東日本大震災との関連を述べています。村上隆の五百羅漢図はもともと東日本大震災を契機に作られました。
東日本大震災後にいち早く支援の手を差し延べてくれたカタールへの感謝を込めて、震災の翌年2012年にドーハで発表されました。
(展覧会概要より)
テーマに選んだ五百羅漢は、もともと自然災害で亡くなった人の鎮魂、残された人の慰めのために五百羅漢像として作られていたそうです。500という多さは、それだけあればどれかは亡くなった人に似ているものがあるという意味があるとのことです。

今回の講演内容はもうすぐ評論として世に出るということなので、内容に深くは触れず、3人の芸術家 (村上隆と狩野一信と藤田嗣治) が活躍したそれぞれの時代と社会の波乱および自然災害の関係を対比させる視点についてのみ記載したいと思います。

2011年3月、狩野一信の五百羅漢図全100幅の公開が予定されていました。直前に東日本大震災が起こったため、延期され、その四十九日をすませた4月29日に改めて開幕することになりました。

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(江戸東京博物館 五百羅漢-増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師 狩野一信 より)

狩野一信がこの五百羅漢図を制作していたのが、1854年から1863年に亡くなるまで。この頃の日本は、1853ペリー来訪、1858年井伊直弼が大老になり、安政の大獄がああった時期ですが、自然災害では1854年 安政東海地震安政南海地震豊予海峡地震 が立て続けに発生し、翌年 安政江戸地震、さらに翌年の1856年には安政東京湾台風が襲ったとのこと。五百羅漢図にはそういう時代背景がある。

藤田嗣治もフランスに渡ってすぐに第一次世界大戦と恐慌を経験し、さらに帰国後は第二次世界大戦の中で戦争画を制作するなど、世界的に乱世であった時代を生きて来た。それだけではなく、戦争の影に隠れているが  (情報統制により広く報道されないようにしていた)、日本では自然災害が多く発生していた  (1943年鳥取地震、1944年東南海地震、1945年三河地震、1944-45年昭和新山、1946年昭和南海地震、1948年福井地震)。

藤田はその戦争画により軍部に協力したという非難を受けるのだが、私は「アッツ島玉砕」など藤田の戦争画は、国民を鼓舞するというより、戦争の悲惨さを伝えている、いわば戦争画の名前を借りた反戦画だと思っていました。

さて、村上隆が生きる現代もまた、1991年湾岸戦争以降、2001年9.11同時多発テロ、2003年イラク戦争、2015年パリ同時多発テロと、大国対大国ではない新しい形の不安定さが続いている。自然災害の方もそれまで比較的安定していたのに、1993年北海道南西沖地震 (奥尻島津波)、1995年阪神淡路大震災、2004年中越地震、2007年中越沖地震/東電柏崎刈羽原発事故、2011年東日本大震災/東電福島第一原発事故と災害が続いている。

椹木氏は、村上隆の作品に、そういう時代背景を見ている。特に朱雀 = 火の鳥を描いたパートに、宇宙 = 核エネルギーへの言及をみており、また、破滅と再生を見ている。

アートの解釈は、最初は人それぞれであろうと思うが、狩野一信や藤田嗣治との共通項を見出す椹木氏の視点は面白いと思ったし、勉強になった。

時代背景が似ているのはわかったが、時代背景から影響された部分に共通項がどれほどあるのかまでは私自身まだ咀嚼できていないので、私の文章にもうまく表出できていません。申し訳ありません。