2017/11/13

パリ・グラフィック展

11月9日、三菱一号館美術館で開かれている「パリ・グラフィック展」の内覧会に参加してきました。

まず展覧会の情報から。

パリ❤グラフィック展
会期:2017年10月18日(水)~ 1月8日(月・祝)
開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、11月8日、12月13日、1月4日、1月5日は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜休館(但し、1月8日と、「トークフリーデー」の10月30日(月)、11月27日(月)、12月25日(月)は開館
年末年始休館:2017年12月29日~2018年1月1日
展覧会サイト:http://mimt.jp/parigura/
トークは、三菱一号館美術館学芸員の野口玲一氏と、おなじみ「青い日記帳」主宰Takこと中村剛士氏。



この展覧会は、19世紀末に大きく動いた、メディアとしての版画に焦点を当てます。誰が見るものか、何が伝えられるのか、どのように流通するのか。

それまで、版画は絵画の1ランク下の存在に見られていました。そこに、ロートレックなど媒体による価値を気にしないアーティストたちが現れます。彼らはカフェや演劇のポスターで成功しますが、だからと言って「格上」の絵画に移行するのではなく、版画も絵画も同じように制作を続けます。

パリの庶民は、これまであまり触れられなかった役者やダンサーの姿を、街中に貼られたポスターで知るようになります。ちょうどそれは、役者が描かれた浮世絵を見ていた江戸市民と似たようなものかもしれません。

ポスターに人気が出てくると、エリートたちはそれを自分の家に飾りたいと思うようになります。大衆向けだった版画が、エリート向けに作られ、リビングに飾られたり、引き出して眺められたりしました。またそうなると題材も変わってきて、例えばエロティックなものも描かれるようになりました。

また、大衆もポスターや版画集という形で版画を買うようになってきます。ここもまた江戸時代に庶民が絵 (浮世絵) を買っていたということを思い出します。

お話を聞いていて、世紀末、時代が変わる感覚、高揚感に、版画ポスターが一役をかったのではないかと思いました。これまで芸術はアカデミーから出ていた、これからは我々庶民からアートが出てくる、そういう時代の変化を感じていたのかもしれません。

そしてこれは今のネットの絵師にも通じるというお話には共感しました。そこから次世代のスターが生まれてくるかもしれません。もう生まれ始めているかも。

以前どこかでロートレック展を見たとき、図録は買わず、「ロートレック写真集」というものを買ってきました。ロートレックの幼少時代、ムーラン・ルージュと踊り子たち、カフェ、娼館などロートレックに関係する様々な写真が収められています。そこに出てくる、ロイ・フラー、ラ・グーリュ、ジャヌ・アヴリルなどが今回モデルとして絵の中で出ていました。それで思い出して「ロートレック写真集」を引っ張り出して見ています。

2017/11/04

アートとAI

11月3日に行われた、ヨコハマトリエンナーレ 「ヨコハマラウンド」ラウンド8<より美しい星座を描くために: アートの可能性とは?> の中で、スプツニ子! 氏から、
世の中は記号であふれている。皆が全てのものに対してカテゴリーに当てはめて理解している。そのほうが理解が簡単だから。しかしアートはそのカテゴリーをはみ出す。そのはみ出し方は無限にあり、世の中の問題の解決策も無限にあるのではないか。
という趣旨の発言があった。この、「アートは今までの常識を覆してくれる。新しい発想を提示してくれる」というのは、これまでも繰り返し言われてきたことであろう。

また、AIが作るアート (イアン・チェンの作品、ゴッホ風の絵を描くAI) の話になり、
AIは評価関数で動く。これはAIに評価関数を与えると、それが高くなる方向へ動くということ。一方、アーティストは評価されるために作るのではない。AIがアートを制作するようになっても人間はアートを作るのをやめないであろう。
という話もでた。

確かにAIで作るアートが「ゴッホ風の絵」とか、既存の価値観での作品だったら、「新しい発想を提示してくれる」というのは期待できないであろう。それは音楽の領域でも同様で、小室哲哉氏は、
AIがどういう曲を作るかは、大体見えます。例えば「マニアックなジャズを」という絞り込み型の作曲はどんどんできる。オーダーを受けて作曲するなら、人よりはるかに優れた曲を作るでしょう。
...
「なんか聴いたことある」というなじみがない曲も、ブレークするのは難しい。
と語っている (AERA dot. 2017/8/31 AI作曲は「絞り込み型なら人間以上」 TM NETWORK小室哲哉)。

ここで考えたのは、アーティストが一般人にできない発想を提示することに存在意義があるなら、AIもそのようなことができるだろう、ということ。そう考えたのは、Google  DeepMind の AlphaGo が、人間の棋士では考えもつかない手を打つということから (これは小室氏も指摘している)。

ただし、AlphaGo は「勝つ」という単一の評価関数を持っている。アートに対して適切な評価関数は何だろう。そういう評価関数がなければ AlphaGo だってランダムな手を打つしかない。

そのランダムな中から、意味のある、しかも「新しい発想を提示してくれる」ものを選ぶ必要がある。それができるのはアーティストだろう。そういう評価関数を与えると言っても良い。

今回の議論の中で「美とは何か」という問いもあった。現代アートでは「美」は求めていないのかもしれないが、これまで印象派やゴッホが新しい「美」を提示したように、今後も新しい「価値」を見いだすのはアーティストだと思われる。

こういうことを考えて、「AlphaGoは単一の『勝つ』という評価関数で動くが、アートの場合は『新しい発想』ということが求められ、単一の評価関数はない。しかし、アーティストが評価関数を作ることでAIにアートを作らせる可能性があるのではないか」という質問をした。はしょりすぎですね。でもスプツニ子! 氏から「Googleの碁の棋譜を見ると人間では考えつかない展開があるそうだ。そのような可能性があるかもしれない」という回答をいただいたので、収穫があったと思います。

2017/09/29

こんなシナリオ

安倍首相の対抗が、同じく改憲/ナショナリズム/民族差別ではどう投票してよいかわからない。よりましな選択肢はないものか。

という訳で次のようなシナリオ (期待) を考えた。

・民進党のリベラルは希望の党の公認を申請せず (ここ大事)、共産党との選挙協力を取り付けた上で、無所属で出る。
・希望の党は大幅に伸ばすものの過半数には届かない。
・与党も過半数に届かず、安倍首相は辞任。
・民進党リベラルはそこそこの議席を確保する。
・無所属リベラルと共産党は、自民党の新しいリーダーと協議し、首班指名では自民党側に回る。入閣は求めず、今後もキャスティングボートを握り続ける。

二番め以降は選挙結果次第だけれど、まずは一番めの動きを期待します。

追記:
  • 過半数に届かなかったら責任をとる、は安倍首相本人が設定した低い目標ですが、ギリギリ過半数を超えたとしてもこれまで2/3を維持していた訳ですから大敗北です。辞任せざるを得ないでしょうね。
  • 10/2 枝野氏が民進党リベラルを結集した新党「立憲民主党」を立ち上げることになり、ここで「無所属で出る」とした人たちの受け皿ができました。「そこそこの議席」と言わず全員当選の勢いを期待します。
  • 10/3 希望の党の第一次公認候補が発表になりました。民進出身は110名。「希望の党の公認を申請せず」と書きましたが、残りは立憲民主党に帰って来れば良いと思います。また、公認を得た人も蹴って立憲民主党に戻った方が良いと思います。
さらに追記 (選挙後):
  • 大外れですね。
  • 与党は再び 2/3 を確保。今のやりたい放題がまだ続く。
  • 希望の党は伸びるどころか改選議席割れ。この点は良かったかな。
  • 立憲民主党が大幅に伸びたことは良かったと思います。「まっとうな」がポイント。

2017/09/09

浅井忠の京都遺産

9月9日から六本木1丁目の泉屋博古館分館で、「浅井忠の京都遺産」が開催されます。それに先だち、7日にブロガー内覧会があり、参加してきました。

浅井忠 (ちゅう) は、学生時代京都にいたときに展覧会に行ってそれ以来気になっていた画家ですが、それ以降まとまった展覧会で見る機会がありませんでした。学生時代に図録を買ったということは相当気に入ったと言えます。図録に書いてある会期をみると1981年でした。

その時も工芸なども展示されていたのですが、画家としてしか記憶していませんでした。今回の展示で、教育者としての側面、図案家として京都の工芸の発展を支えた側面など知ることができました。コンパクトながらよくまとまった展示になっています。

浅井忠は、黒田清輝などとともに明治時代の洋画の基礎を作った人です。東京美術学校 (東京芸術大学の前身) の教授で、ヨーロッパに派遣され洋画の研究やパリ万博を視察を行いました。そこで誘われて、京都工芸繊維大学の前身である京都高等工芸学校の開学と同時に教授に就任します。

展覧会は三章に分かれます。

第1章 はじまりはパリ - 万国博覧会と浅井忠
第2章 画家浅井忠と京都洋画の流れ
第3章 図案家浅井忠と京都工芸の流れ

ブロガー内覧会では普通一部だけ解説するのですが、ほとんどの作品の解説がありました。

武士山狩図の解説をする実方葉子さん (泉屋博古館(京都)学芸課長)。下絵も複数展示されていて、入念な仕事ぶりがわかります。あまりの注文の多さにモデルが逃げ出して、用務員さんが代役を務めたというエピソードが面白かったです。姿勢のしっかりした人がいてよかった。

工芸作品の解説をする森下愛子さん (泉屋博古館分館学芸員)。京都高等工芸学校で教材として使うためにヨーロッパで作品を買い集めた話、釉薬の工夫、アールヌーボーとの関連など興味深いお話でした。京都に陶磁器試験所を作ったりしているんですね。産業界への貢献も今回知ったことで、収穫がありました。

なお、写真撮影は今回特別に美術館より許可をいただいています。

特別展 「浅井忠の京都遺産―京都工芸繊維大学 美術工芸コレクション」
会場:住友コレクション 泉屋博古館分館
 〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
 03-5777-8600
会期:2017年9月9日(土)―10月13日(金)  
開館時間:午前10時00分~午後5時00分(入館は4時30分まで)
休館日:休館日:月曜(9/18・10/9は開館、9/19(火)・10/10(火)は休館)
入館料:一般 800円(640円) / 学生600円(480円) (  )内は団体料金
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/program/


2017/07/15

全裸のキリスト

三菱一号館美術館で、「レオナルド×ミケランジェロ展」が行われています。

レオナルド×ミケランジェロ展
会期:2017年6月17日(土)~9月24日(日)
開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜休館(但し、祝日は開館)
展覧会サイト:http://mimt.jp/lemi

7月11日、ブロガー向け内覧会が行われました。ナビゲーターはおなじみ「青い日記帳」主宰のTakこと中村剛士さん。

ちょうどこの日からミケランジェロの未完の彫刻 《十字架を持つキリスト (ジュスティニアーニのキリスト) 》が公開されています。

これはミケランジェロが製作していたものですが、彫り進めて顔の部分に来た時に、もともとの石に大きな疵が見つかり、そのためミケランジェロは製作を途中でやめてしまったものです。後に17世紀に別の彫刻家によって現在の形に仕上げられたようで、この形で取引されていたことが記録でわかるそうです。長らく行方がわからなかったのですが、2000年に特定されたとのこと。

なぜ会期の最初から展示されなかったかというと、6月までロンドンのナショナル・ギャラリーで展示されていたため。学芸員のトークでは設置にあたってのドタバタも披露されました。二重の木箱で送られてくるのだが、内箱の状態で設置して、箱の底は土台として残しその上にカバーがかけられて展示される。箱の状態で設置するため、どちらが正面なのかわかっていないといけないのだが、イタリアから来た担当者はわからないとのこと。結局再度クレーンを持ち込み設置し直したそうです。トークでは「何しに来たんだ」、「さすがイタリア人」という怨嗟の声が感じられました。

さてこの作品は、キリスト像には珍しく全裸です。しかも痩せ細った姿でなく筋骨隆々。ルネサンス芸術にギリシア古代芸術の特徴を取り入れた形になっています。キリストが全裸というのは、当時はとんでもない話だっということですが、ミケランジェロだから通ったというところもあるとのこと。

どの部分がミケランジェロでその部分が後世の彫刻家によるものか、という疑問に関しては、立ち方、十字架に寄り添うポーズ、足や背中の筋肉にはミケランジェロの特徴が出ているとのこと。顔に疵が発見されてそこでやめてしまったので、顔、左腕あたりは後世の彫刻家によるものと考えられているそうです。

展示にあたっては外光が入るようにしているとのことで、一階に設置されていることもあり、外からも一部は見えるようです。どれくらい見えるのか、そとから見た感じはどうなのか、ちょっと気になります。

ミケランジェロのこの作品のことばかり書きましたが、レオナルド×ミケランジェロ展は、素描を中心に二人の対比がされた展示になっています。

2017/05/01

ヨコトリ2017の予習として ...

... 出展アーティストの作品が今展示されている展覧会を見に行った。

表参道の岡本太郎記念館で 「TARO賞20年 20人の鬼子たち」という展覧会が行われている。キュンチョメさんのサイトで、風間サチコが出ている! ということを知って行ってみた。行って初めて気がついたのだけど、宇治野宗輝も出てた。

いずれも1点だけなので、それほどよく知ることができるわけではない。風間サチコは2013年(から32014年初め) に森美術館で行われた「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト―来たるべき風景のために」と、2014年に横浜美術館で行われた「魅惑のニッポン木版画」で見ていたが、宇治野宗輝は初めてだったので収穫と言える。

20人のアーティストの中では、キュンチョメ «空で消していく» が一番よかったな。被写体になっている人が、自分が見たくないものを語り、それが見えないように鏡で隠し空を反射させながら、鏡を移動しパノラマ写真を撮る。例えば。アトピー皮膚炎に悩まされている人は、その体を小さな鏡で隠していく。

キュンチョメさんは横浜トリエンナーレ出展作家じゃないけれど、ヨコトリ2014の初日には花輪の格好をして来てた (サイトのトップページの画像)。今年も来てくれるかな?

そのあと、畠山直哉が出ている椿会展2017を見に銀座の資生堂ギャラリーまで行ったのだけど、月曜は休館だった (T . T)。サイトの紹介では、
これまで毎回異なった連作を発表し、さまざまなパーソナリティを見せてきました。今回は60~70年代に建設されたイギリスのニュータウン、テムズミードを撮影したシリーズに、当時の不動産広告のテキストを組み合わせた作品と、今年1月に撮影した赤瀬川原平のアトリエの写真を展示する予定です。
とあって、ちょっと気になる。今月中に行けるかな。

その後せっかく来たので銀座のアートスペースをいくつか回った。

今日は本当は草間彌生展を見ることが主目的だったのだ。今日5月1日は出勤日なのだけど、休日には混雑しているので、休みを取って行った。開館時刻の10:00からちょっと過ぎで入ったのだけど、十分込んでたな。特に昼食をとった後、乃木坂駅に行くのに横を通ったらチケットを買う列が結構長くなってた。それ以上に草間彌生展物販の並び (これは会場外にはみ出している) が伸びてた。

今日行った美術展、アートスペース。




2017/04/29

アルフレド・ジャーの講演を聞いてきた

4月18日、森美術館で、「アージェント・トーク031:崩れゆく絆―アルフレド・ジャーが見る世界のいま」を聞いてきた。

最初に携帯電話の電源を切ってくださいと言われる。いつもだったら「電源を切るかマナーモードにしてください」と言われるところだが、今日は「電源を切ってください」だけ。さらに主催者側からだけでなく、本人からも言われる。スマートフォンでノートをとるつもりだったが、これだけ言われるのだからと思い、電源も切った。後で思うと、講演に没入してくださいということだろう。その価値はあった。

まずアルフレド・ジャー (Alfredo Jaar http://www.alfredojaar.net/) のポリシーが述べられる。「作品を制作する前にコンテキストをちゃんと理解する」。綿密な調査を基に作品制作を開始する。

アーティストトークというと、まずこれまでの作品をスライドで見せることが多い。アルフレド・ジャーも過去の作品というかプロジェクトの話から始まる。

しかし最初のスライドは女性水泳選手が泳いでいるところ。正面から撮ったものだが、スイミングゴーグルと水しぶきで誰かわからない。

Wikipedia "Death of Alan Kurdi" より 
次のスライドから4枚は、大きな話題となった、難民ボートで遭難して亡くなった子供の写真とそれを抱きかかえる男性の写真。Alan Kurdi という名前だそうだ。
Wikipedia "Death of Alan Kurdi"

この4枚の写真はその後もプロジェクトの切り替えの時に間に挟むように使われる。その間アルフレド・ジャーは無言だ。

そう、これは伏線だ。

プロジェクトの一つはスウェーデンの街に美術館を作る話。Skoghall はスウェーデンの製紙の街。製紙工場で働く人のために会社が街を作った。住宅も学校も病院も図書館も。ただ美術館はなかったので、美術館を作るプロジェクトにアルフレド・ジャーが呼ばれる。アルフレド・ジャーは美術館を作るために調査を開始する。住民に聞き取り調査をするが、別に美術館がなくても良いと考える人が多くいた。

アルフレド・ジャーは紙を主に使った美術館を作る。地元のアーティストにも紙を使った作品を制作してもらう。また、子どもたちが紙を使った作品を作るワークショップも開く。ただ、この美術館は1日限定のオープンで、次の日には燃やしてしまう。住民に「美術館のある生活」を理解してもらい、そしてそれがなくなった生活を理解してもらうことが目的なのだ。

その目的は達せられ、その後恒久的な美術館が建てられることになった。

Lights in the City はカナダモントリオールでのプロジェクト。ホームレスが市民から見えない (透明な) 存在になっていると感じているのに対して起こされた。ホームレスが一時宿泊施設に入りスイッチを押すたびに、モントリオール旧市街にある Marché Bonsecours (ボンスクールマーケット) のドームに設置された赤いLEDライトが灯る。

フィンランドは難民の受け入れ率が非常に低い。そこで、100万冊のパスポートを用いたインスタレーションを作った。

東日本大震災に対して彼のリサーチは被災した小学校にも向けられる。黒板を用いたインスタレーション «生ましめんかな» があいちトリエンナーレ2013に出品された。

次第にプロジェクトから現実の世界の認識に入る。

Alan KurdI 君の写真は世界中の人々の心を打った。世界の多くの新聞が彼の写真を一面トップに使った。普段はゴシップを取り上げるタブロイド紙も同様だ。難民受け入れの機運は大きく盛り上がった。

しかし今、その機運は縮小しつつある。英国のEU離脱の一因は難民というかEU全体から入ってくる移民の受け入れ問題にある。フランスも極右政党国民戦線のルペン氏が力を伸ばしている。

そしてアメリカではメキシコからの移民を排斥する主張のトランプ氏が代表になった。ただトランプに対してはヨーロッパは批判的で、イギリスではトランプをイギリスに呼ぶなという声が盛り上がっている。

アジアではヨーロッパに比べ難民に対する意識は低い。中国では習近平がトランプを歓迎している。日本に至っては最悪で、真っ先にトランプに会いに行った。

希望はカナダのトルドー首相だ。難民歓迎イベントでインドの民族舞踊が披露された時、トルドー首相は民族衣装で一緒に踊っているところがビデオで流された。

アルフレド・ジャーも難民問題を題材にしたプロジェクトを行った。公園で青い立方体の箱を配る。その箱は内側に、Alan君が打ち上げられていた浜の写真をAlan君を抜くように加工した写真が印刷されている。裏返しに箱を組み立てると表面にそのの写真が出る。また、遭難した難民を救助する NPO Migrant Offshore Aid Station (MOAS) への寄付を呼びかけるメッセージがふくまれている、

リオデジャネイロ・オリンピックでは希望の光が見えた。これまで国を出てオリンピックに出場できなくなった難民で初めて難民選手団が組まれたのだ。その中の一人が女子競泳のユスラ・マルディニ選手。そう、最初に出された写真の選手だ。彼女は海を渡ってギリシャに行く。そこで命の保証を得たのだが、彼女は水泳がやりたかったので、そこを出て幾つかの国を経由してドイツにまで行く。そうやって夢をつかんだのだ。

1時間半惹きつける講演で、帰りのエレベーターでは「消化しきれないね」という声が上がっていた。この機会を提供していただいた森美術館に感謝します。


この日、4月18日は、ヨコハマトリエンナーレ2017のアーティスト発表があった日だ。ヨコハマトリエンナーレ2017のテーマは「孤立」と「接続」。各国が自国ファーストで内向きになり孤立していく世界をどのように接続していくことができるのか。プレスリリース  (PDF) から引用する。
本トリエンナーレでは、「接続」と「孤立」をテーマに、こうした相反する価値観が複雑に絡み合う世界の状況について考えます。そして、人間の勇気と想像力や創造力がどのような可能性を拓くことができるのか、開国、開港の地・横浜から新たな視点を発信します。
今年 Socially Engaged Art 展 で、難民のライフジャケットを用いたインスタレーションを披露したアイ・ウェイウェイが、やはりライフジャケットを使った作品を出すという。

この日聞いたアルフレド・ジャーの講演は、「孤立」と「接続」に合致していると思う。ヨコトリ2017で彼の講演を再度聞きたいし、皆にも聞いて欲しいと思うのだ。

同じく講演を聞いていた人の記事: