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2010/03/01

言葉が専門家と一般人をつなぐ

こんばんは。

先日24日に休みをとって、第1回産業日本語研究会・シンポジウムに行って来ました。大雑把にいえば、人間にもコンピュータにも分りやすい日本語を作ることを目指した研究会です。

その中で、「理解しやすい日本語を作る先行的な取り組み」として、司法の分野と医療の分野が紹介されていました。これらの場合、「専門家にしか分らないような日本語を一般人にも分るようにする」ことを目的とした取り組みです。

興味深かったのは、その取り組みの構造が恐ろしく似ていたことです。

まず目的が、「必要に迫られて」ということです。司法の分野は裁判員制度の導入で、医療の場合は「インフォームドコンセント」です。

これまで裁判は、検索、弁護士、裁判官という、いずれも司法試験を通った人で行われてきました。そこに司法の素人である裁判員が加わることになります。正しい判断をするためには、正しく理解しなければ行けません。そのために、専門用語で構成された法律、冒頭陳述や求刑など裁判で作成される文章を理解できるようにしなければならないということです。

医療の分野の「インフォームドコンセント」も同様に、治療の方針を患者側が納得した上で進めないといけないので、納得する前に理解できる必要があります。それまでは「先生にお任せ」であったので、説明の必要すらなかった場合もあるのですが、これからそういう訳にもいきません。
その改革のプロセスも似通っています。その専門家と、専門外の人 (その中で特にNHKなど日本語で伝えるという意味では専門家) でタスクを作ります。数ある専門用語の中から重要なものをピックアップし、ひとつひとつ専門家が意味を説明し、非専門家が分らないところを聞いて、それからどういう言葉なら理解できるのかを議論します。

またこのプロセス自体も手探りで作って行ったと言うことです。

タスクメンバーの関与の仕方が変わって行ったというのも共通しています。最初はやり方がわからないことによる試行錯誤もあるし、専門用語をどうやって簡単にするのかが難しいこともあって、それほど皆さん乗り気ではなかったようですが、次第にこの議論が面白くなって来たと言うことだそうです。みなさん素人と言っても別の分野では専門家な訳で、知的好奇心を刺激するのでしょう。また何でも真剣にやれば次第に面白くなって来るものです。

面白かった例は「冒頭陳述」を「検察が考えるストーリー」 (すみません今資料がなくてうろ覚え) に言い換えるときに、検察側の反発が大きかったということです。「ストーリー」というと、如何にも作り話に聞こえ、検察側が誘導しようとしているみたいに聞こえてしまいます。しかし、本来裁判はこの冒頭陳述が証明付けられるかを争うプロセスです。有罪率が高かったり、推理ドラマでは裁判前に犯人が参りましたと言うところを見せられて来ていますから、日本人は検察のいうことは正しいものと捉えがちです。またマスコミも、冒頭陳述のそういう位置づけを説明せず、あたかもそれが実際にあったことをそのまま報道しているかのような書き方をしています。

結局この「ストーリー」でいくことにしたそうですが、この名前の変更だけでも、これまで常識と思っていたことを考え直すきっかけになるでしょう。それは検察にとっても同様じゃないかと思います。これまで正しいものとして受け止められて来たものが、そうでないかもという目で見られるのですから、自ずと説得力のある書き方に変わってくるのではないでしょうか。

ただ本当は単語の意味の問題だけではないのですけどね。そういう意味で、次のイベントは気になります。

2010年3月7日 裁判員裁判におけるコミュニケーション・デザインの学際的研究