2017/11/26

デンマーク・デザイン展

11月23日から行われるデンマーク・デザイン展の内覧会が22日に行われ、参加しました。

北欧デザインというくくりでの展覧会はあったが、デンマークに特化したもので大きなものは今回が初めてということです。

まずデンマーク大使館のマーティン・ミケルセン氏の挨拶です。

デンマークの冬は長く、気候が厳しい。人はあまり外出したがらず、家を快適にすることに力を入れる。そのため快適なインテリア、家具のデザインが発達した。

ここはこれからこの展覧会をみていく上でキーとなるポイントだと思いました。

そのあとは、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館の主任学芸員 江川均氏による解説です。全体が章立ての構成になっており、それに従って館内を順に巡ります。

最初はロイヤル・コペンハーゲン。これは「デンマーク・デザイン」が注目される前の時代です。まず「ブルーフルーテッド」(写真)。そしてその後の「ブルーフラワー」シリーズが続きます。

磁器は焼成温度が1400℃と高く、その温度に耐えられる色は青しかなく、このため白地に青一色の絵付けが主流です。後には多色のものもありますが、それは複数回に分け焼いたもので、そのためコストが高くなります。多くの人に使ってもらうことを優先して青一色のものが多くなっているそうです。

「ブルーフラワー」シリーズでは非対称のデザインが特徴ですが、これにはジャポニズムの影響が大きいということです。

次の部屋では、近代デザインのパイオニア、コーオ・クリントに光が当たります。古典をベースにしながら、機能性を追求した家具をデザインしました。人間工学の先駆者と言われれいるそうです。直線的なデザインが特徴です。

次の時代「 ミッドセンチュリー」の特徴は「オーガニック」です。「オーガニック」は今と違って、「曲面のデザイン」という意味です。人間工学の影響もありますし、素材の発達、工業の発達によってそれが可能になったという背景もあります。また、大量生産のアメリカに対して、手工業的なところがあり、そこが人気になりました。

この時代の中心人物に、アーネ・ヤコプスン[アルネ・ヤコブセン]、ハンス・ヴィーイナ[ウェグナー]、フィン・ユールがいました。もともと建築家だが、その中の家具をデザインしたという人が多いようです。


ヴェアナ・パントン (写真) もこの時代の人です。あれ、このデザインは? と思いましたが、そうです、以前  (2009年だったよ ...) 見たヴェルナー・パントンです。プラスティックという新しい素材を使うところはデンマークらいしかもしれませんがが、色使いやフォルムは他のデンマーク製品とは一線を画するようなものになっています。図録を見るとやはり特に国外で高く評価されたとありました。

家具以外では、ポウル・ヘニングスンの眩しくない照明「アーティチョーク」や、ヤコブ・イェンスンのオーディオ機器やポータブルラジオがありました。ヤコブ・イェンスン[イェンセン]は、バング&オルフセンのかっこいいオーディオ機器を手がけた人です。これは欲しいと思う人は多いのではないでしょうか。

レゴもデンマークでしたね。最初の頃のパッケージとか展示されていて興味深い。こんな小さなパッケージで小分けにされて売られていたんですね。少しずつ貯めて、大事に使っていたんだろうなと思います。

最後の章「ポストモダニズムと現代のデンマークデザイン」では、自転車の説明がありました。展示されていたキビースィの自転車《PEK》高級品で高いものですが、デンマークは国土の高低差が少ないため、自転車大国となっおり、普段使いの自転車の産業も盛んだそうです。展示されていた自転車の背後の壁には、デンマークの日常に自転車が自然に存在する写真が貼られていました。

最後に座れるチェアが幾種類か置いてあります。ここでは写真撮影も可能です (本記事は美術館より特別に写真撮影の許可をいただいています)。右はその一つ。デンマーク大使館のマーティン・ミケルセン氏が、「このサイドのカーブが自然にバックのカーブに繋がっているところが身体にフィットするんだよー」というようなことを説明していました (たぶん)。

以下展覧会の情報です。

日本・デンマーク国交樹立150周年記念
デンマーク・デザイン
http://www.sjnk-museum.org/program/current/5062.html
会期:2017年11月23日(木・祝)~12月27日(水)
休 館 日:月曜日(ただし12月25日は開館)
会場:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
〒160-8338 新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
開館時間:午前10時-午後6時、金曜日は午後7時まで(入館は閉館30分前まで)
観覧料
 一般:1,200円(1,000円)
 大・高校生:800円(650円)  ※学生証をご提示ください
 65歳以上:1,000円     ※年齢のわかる物をご提示ください
 中学生以下:無料      ※生徒手帳をご提示ください
 ※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳を提示のご本人と
 その付添人1名は無料。被爆者健康手帳を提示の方はご本人のみ無料。
主催:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館、日本経済新聞社

2017/11/13

パリ・グラフィック展

11月9日、三菱一号館美術館で開かれている「パリ・グラフィック展」の内覧会に参加してきました。

まず展覧会の情報から。

パリ❤グラフィック展
会期:2017年10月18日(水)~ 1月8日(月・祝)
開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、11月8日、12月13日、1月4日、1月5日は21:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜休館(但し、1月8日と、「トークフリーデー」の10月30日(月)、11月27日(月)、12月25日(月)は開館
年末年始休館:2017年12月29日~2018年1月1日
展覧会サイト:http://mimt.jp/parigura/
トークは、三菱一号館美術館学芸員の野口玲一氏と、おなじみ「青い日記帳」主宰Takこと中村剛士氏。



この展覧会は、19世紀末に大きく動いた、メディアとしての版画に焦点を当てます。誰が見るものか、何が伝えられるのか、どのように流通するのか。

それまで、版画は絵画の1ランク下の存在に見られていました。そこに、ロートレックなど媒体による価値を気にしないアーティストたちが現れます。彼らはカフェや演劇のポスターで成功しますが、だからと言って「格上」の絵画に移行するのではなく、版画も絵画も同じように制作を続けます。

パリの庶民は、これまであまり触れられなかった役者やダンサーの姿を、街中に貼られたポスターで知るようになります。ちょうどそれは、役者が描かれた浮世絵を見ていた江戸市民と似たようなものかもしれません。

ポスターに人気が出てくると、エリートたちはそれを自分の家に飾りたいと思うようになります。大衆向けだった版画が、エリート向けに作られ、リビングに飾られたり、引き出して眺められたりしました。またそうなると題材も変わってきて、例えばエロティックなものも描かれるようになりました。

また、大衆もポスターや版画集という形で版画を買うようになってきます。ここもまた江戸時代に庶民が絵 (浮世絵) を買っていたということを思い出します。

お話を聞いていて、世紀末、時代が変わる感覚、高揚感に、版画ポスターが一役をかったのではないかと思いました。これまで芸術はアカデミーから出ていた、これからは我々庶民からアートが出てくる、そういう時代の変化を感じていたのかもしれません。

そしてこれは今のネットの絵師にも通じるというお話には共感しました。そこから次世代のスターが生まれてくるかもしれません。もう生まれ始めているかも。

以前どこかでロートレック展を見たとき、図録は買わず、「ロートレック写真集」というものを買ってきました。ロートレックの幼少時代、ムーラン・ルージュと踊り子たち、カフェ、娼館などロートレックに関係する様々な写真が収められています。そこに出てくる、ロイ・フラー、ラ・グーリュ、ジャヌ・アヴリルなどが今回モデルとして絵の中で出ていました。それで思い出して「ロートレック写真集」を引っ張り出して見ています。

2017/11/04

アートとAI

11月3日に行われた、ヨコハマトリエンナーレ 「ヨコハマラウンド」ラウンド8<より美しい星座を描くために: アートの可能性とは?> の中で、スプツニ子! 氏から、
世の中は記号であふれている。皆が全てのものに対してカテゴリーに当てはめて理解している。そのほうが理解が簡単だから。しかしアートはそのカテゴリーをはみ出す。そのはみ出し方は無限にあり、世の中の問題の解決策も無限にあるのではないか。
という趣旨の発言があった。この、「アートは今までの常識を覆してくれる。新しい発想を提示してくれる」というのは、これまでも繰り返し言われてきたことであろう。

また、AIが作るアート (イアン・チェンの作品、ゴッホ風の絵を描くAI) の話になり、
AIは評価関数で動く。これはAIに評価関数を与えると、それが高くなる方向へ動くということ。一方、アーティストは評価されるために作るのではない。AIがアートを制作するようになっても人間はアートを作るのをやめないであろう。
という話もでた。

確かにAIで作るアートが「ゴッホ風の絵」とか、既存の価値観での作品だったら、「新しい発想を提示してくれる」というのは期待できないであろう。それは音楽の領域でも同様で、小室哲哉氏は、
AIがどういう曲を作るかは、大体見えます。例えば「マニアックなジャズを」という絞り込み型の作曲はどんどんできる。オーダーを受けて作曲するなら、人よりはるかに優れた曲を作るでしょう。
...
「なんか聴いたことある」というなじみがない曲も、ブレークするのは難しい。
と語っている (AERA dot. 2017/8/31 AI作曲は「絞り込み型なら人間以上」 TM NETWORK小室哲哉)。

ここで考えたのは、アーティストが一般人にできない発想を提示することに存在意義があるなら、AIもそのようなことができるだろう、ということ。そう考えたのは、Google  DeepMind の AlphaGo が、人間の棋士では考えもつかない手を打つということから (これは小室氏も指摘している)。

ただし、AlphaGo は「勝つ」という単一の評価関数を持っている。アートに対して適切な評価関数は何だろう。そういう評価関数がなければ AlphaGo だってランダムな手を打つしかない。

そのランダムな中から、意味のある、しかも「新しい発想を提示してくれる」ものを選ぶ必要がある。それができるのはアーティストだろう。そういう評価関数を与えると言っても良い。

今回の議論の中で「美とは何か」という問いもあった。現代アートでは「美」は求めていないのかもしれないが、これまで印象派やゴッホが新しい「美」を提示したように、今後も新しい「価値」を見いだすのはアーティストだと思われる。

こういうことを考えて、「AlphaGoは単一の『勝つ』という評価関数で動くが、アートの場合は『新しい発想』ということが求められ、単一の評価関数はない。しかし、アーティストが評価関数を作ることでAIにアートを作らせる可能性があるのではないか」という質問をした。はしょりすぎですね。でもスプツニ子! 氏から「Googleの碁の棋譜を見ると人間では考えつかない展開があるそうだ。そのような可能性があるかもしれない」という回答をいただいたので、収穫があったと思います。