21_21 DESIGN SIGHTで行なわれている「アスリート展」のイベント、トーク「アスリートのコミュニケーション」に行ってきた。「コミュニケーション」とか言われると行かざるを得ないよね。
「アスリートのコミュニケーション」と言っても、「ファイト!」とか「チェストー!」とか「どんまい」とかそういうことではない。最初に「コミュニケーション」の定義が示された。「言語化する = イメージを言語に変換する」ことで、ここでは典型的には「コーチがどう技術を伝えるか」ということになる。
コミュニケーションの難しさは、選択肢が無数にある中で適切な表現を選ばなければいけないことにある。それはお互いに共有する前提 = 背景情報によって異なる。相手が何を知っているかを知らないと最適な表現は選べない。
慶応大学の加藤貴昭准教授はスポーツの動きの研究を行っている。身体が勝手に反応する「ゾーン」の話、自分の動きを考えすぎるとうまく動けなくなる「チョーク」の話などがあって、"Implicit Learning vs Explicit Learning" の話があった。"Explicit Learning" は直接技術を教えることに対して、"Implicit Learning" は違う表現で教える。学習者はそれを受けて自分で正しい技術を習得する。このほうが、一定期間経った後に覚えている割合が高いという。
"Analogy Learning" は Implicit Learning の一手法。類似性、比喩表現で教える。フリースロー2750回連続成功のギネス記録を達成したトム・アンベリー氏は、その秘訣を「頭上にあるクッキーの瓶に手を突っ込むように」と語ったという。その他、バレエなどでは「操り人形が上から吊るされているかのように立つ」みたいな表現がされているのは知られていることかと思う。
展覧会の一つの出品作品がこの "Analogy Learning" をテーマにしている。例えば「地面を熱したフライパンの上だと思って走る」というアナロジーに対して、右に走っている映像、左に熱したフライパンの映像を配置する。
この作品を作るために、加藤氏が学生に与えた課題「アスリートから自分のアナロジー表現を聞き出してくる」の結果を使った。慶応大学のクラスだと、周辺に各分野のトップレベルのアスリートが多いからこういう課題が出せるという。なるほど、地方大学では難しいだろう、また東大でも難しいかと思った。
最初に、コミュニケーションでは共通する背景知識が重要だということを書いた。アナロジーは、相手も知っていると思われる一般的な知識を用いるので、その点はクリアできているのだと思う。また、「地面を熱したフライパンの上だと思って走る」を言葉にすると「地面への接地面積、時間を短くして ... 」ということになろうが、これを実際にやろうとすると、先に述べた「チョーク」が起き、うまく体が動かない。
アナロジーはスポーツの分野だけでなく、いろいろな分野に適用可能だと思った。実際に使われているのだと思う。自分が何かを説明する上で活用を考えていきたい。
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