2018/07/16

モネの遺産


つまり、
モネは印象派ではなく、
あらゆる現代美術の
生みの親ではないのか?
(アンドレ・マッソン)
これは、7月14日から横浜美術館で開催されている「モネ それからの100年」の冒頭に示されているメッセージ。写真は初日の14日閉館後に行われた夜間特別鑑賞会で特別に許可がおりたものです (以降も同様)。

鑑賞に先立って、学芸員の坂本恭子氏からミニレクチャーがありました。

今回の題名にある「それからの100年」は、モネ生誕100年や没後100年という意味ではなく、「画業の集大成となる《睡蓮》大装飾画の制作に着手してから約100年」ということです。今回の展示は、単なるモネの回顧展ではなく、モネとモネ以降のアーティスト26名の作品を合わせて展示し、モネと現代美術の繋がりを探るものになっています。

関連性を分類して章立てにして、モネと後世のアーティストの作品を合わせて展示しています (3章以外)。

  • 1章 新しい絵画へ—立ち上がる色彩と筆触
  • 2章 形なきものへの眼差し—光、大気、水
  • 3章 モネへのオマージュ—まざまな『引用』のかたち
  • 4章 フレームを越えて—拡張するイメージと空間
1章の前に冒頭のメッセージとともに「睡蓮」があります。それぞれ対象はきちんと描写されていますが、全体を見るとまるで抽象絵画のように感じられるということです。これまでそういう視点で見たことがなかったのですが、言われてみればなるほどと思います。

「1章 新しい絵画へ—立ち上がる色彩と筆触」。ここで「色彩」は、印象派の特徴である「筆触分割」を指します。絵の具を混ぜず、配分させて絵の上に置いてき、鑑賞者の目に入った時に元の色が再現されます。

右はルイ・カーヌの作品。なんと金網の上に樹脂絵の具で描かれており、純粋に色だけで作品を構成しようとしたものだと思います。

「筆触」は、筆の速さと力強さ。それまでの絵が筆跡が残ってはいけないとされていたのに対して、「筆触分割」のためでもありますが、大胆に筆跡を残す手法を採ります。
参考: あき @sugokuaki さん (2018/03/08)


5分でわかれ!!印象派!! pic.twitter.com/WrZsv7RXVj

「2章 形なきものへの眼差し—光、大気、水」では、形のないもの  = 通常は絵に残せないものをいかに伝えるかということがテーマになります。モネ作品では《セーヌ川の日没、冬》(1880) (右写真左)、《霧の中の太陽》(1904)などが出展されています。

チャリング・クロス鉄橋の上を走る蒸気機関車はほとんど霧の中で見えませんが、霧の中にかすかにわかるその煙から、機関車の存在もわかります。



後世の作品では、マーク・ロスコ、ゲルハルト・リヒター、モーリス・ルイス、松本陽子などが挙げられています。

右はモーリス・ルイス。絵の具を耐え流して画布に染み込ませる手法を用いて、色を何層にも重ねています。とはいえどのように製作したか詳細は不明だそうです。

松本陽子は以前私は酷評しましたが (あえてリンクは示しません)、こういう位置付けで出されるのは理解できます。

この中で気になったのが、水野勝規のビデオ作品。下写真の左が《photon》、右が《reflection》。水に映る光の反射が心地よく、8分とか9分の作品なのですが、時間があればずっと見ていたいと思いました。


「3章 モネへのオマージュ—まざまな『引用』のかたち」ではモネの作品はなく、各アーティストの「睡蓮」などをモチーフにしたオマージュ作品が並びます。モネ要素を探しながら見ると楽しいと思います。

「4章 フレームを越えて—拡張するイメージと空間」の「フレーム」は額縁のこと。通常広い視界の中から「絵にする部分」、「絵になる部分」を決めます。しかし《睡蓮》はどこを切り出しても良い部分を描いています。このために無限に続くイメージが自然に想起されます。

小野耕石の《波絵》は、アルミに貼った紙にシルクスクリーンで油性インクを載せたものを組み合わせて並べて作品にしています。組み合わせ方により形を変えられるそうです。無限に続くイメージを想起させるという点で「フレームを越えて」という章に位置付けられているのですね。

美術の窓  2018年6月号 (小野耕石 Official site 2018/05/21 「美術の窓 モネ特集です」より) によると、小野自身は、「モネから直接影響を受けて制作したことはない」と語っているそうです。ただ、モネの絵に対して「眺めている窓のサイズが違っているだけで何らイメージが変わらなかったんです」と語っていて、まさにその点で自分とモネの共通点を見出されるとは思ってもいなかったんじゃないでしょうか。

オマージュのところでも出ていた福田美蘭の作品、《睡蓮の池》(下写真左) の発想に感心しました。描いているのは、レストランから見た都会の夜景。暗いレストランの室内と遠くの夜景が繋がって池を形成し、レストランの各テーブルを睡蓮の葉に見立てているのです。そして右が新たに制作され今回横浜展から加えられた《睡蓮の池 朝》。モネの「連作」のように、同じ対象を時間を変えて見るということでした。


「モネ? もうね、十分見たから」という人も、新しい見方が得られると思います。

展示会情報
https://monet2018yokohama.jp/
展覧会名: モネ それからの100年
会期: 2018年7月14日(土) ~ 9月24日(月・休)
休館日: 木曜日(8月16日は開館)
会場: 横浜美術館
開館時間: 午前10時~午後6時
 ※ただし9月14日(金)、15日(土)は午後8時30分まで
 ※入館は閉館の30分前まで

0 件のコメント: