1月25日、26日に、
フューチャー・デザイン・ワークショップ 2020 が行われ、その2日目を聴講に行きました。
フューチャー・デザインとは何か。未来を現在の延長線上として考え改善していくのではどうしても今直近の問題が重要視される。これに対して、フューチャー・デザインは、まず未来の姿を想像しそこからそのために今やらなければいけないことを決めていく。とはいえ人間は現在の問題にとらわれがちなため、「将来世代になったつもり」の人間を作って将来世代の代理をさせるという手法を使う。
SDGs (Sustainable Development Goals) も世界の改革を目指しているが、現在ある問題を解決する複数のゴールを目指すとは対照的だ。
しかしフューチャー・デザインはまだSDGsほど広まっていない。良いアイデアならもっと広まっても良さそうではある。実現にはいろいろ課題もあるのだろう。このワークショップではそういう点も意識して学びたい。
「世代間倫理における責務と互恵性」 廣光俊昭 (財務総合政策研究所)
例えば現世代が限りある資源を費消すると将来世代はその分使える資源が減る。将来世代のことを考えれば現世代が困窮しても将来世代のために資源を残しておくべきである。これは現世代の人間にフリーハンドがある状態を基準とすれば、将来世代のために自分たちを犠牲にするということである。自分の血の繋がった子に対してならばともかく、何世代も先のしかも全世界の人間のために犠牲になるのが受け入れられるか、ということになる。「互恵性」はそのような一方的な「恵」の受け渡しではなく、将来世代の幸せが現世代にとっても幸せに繋がるという考え方。近い将来で言えば、現在世代の一員である若いせ世代が自分が年齢を重ねるごとに世界は貧しくなっていくという未来が見えているとき、はたして現在世代の秩序を守るインセンティブがあるかという問題になる。そうすると将来世代も今と同じ状態またはよりよい未来があるほうがいいよね、ということになる。
しかしそういう理想的な考え方もなかなか通用しない。現実的に我々日本人は将来世代に「恵」をわたすどころか借金を残している。「国の借金は自分からの借金だから問題ない」という人がいるけど、
母ちゃんから借りているんじゃなくて自分の子どもから借りてるんだよ。じゃあ増税して国の支出も抑えるべきかというと、それで経済が低迷したらその低迷した経済を子どもたちに残すことになるので問題はやっかいだ。
自分の世代で使う資源と次の世代に残す資源をシミュレートする世代間持続可能性ジレンマゲーム (Intergenerational Sustainability Dilemma Game, ISDG) (A/Bゲーム) * というものをこのワークショップで初めて知ったが、これが複数の発表で取り入れられていることを見るとなかなか解決しない問題ということがわかる。
* 西條 2018「フューチャー・デザイン:持続可能な自然と社会を将来世代に引き継ぐために」(PDF)
「リーディングプログラムにおける“フューチャー・デザイン”ゼミ活動」 フューチャー・デザイン ゼミ(田中徹他) 慶應義塾大学大学院博士課程 教育リーディングプログラム
慶應大学には「リーディングプログラム」という仕組みが2つあって、もう一つシンギュラリティ・ゼミは「サイエンス・フィクションワークショップ」というテーマで午後に発表がある。このプログラムのユニークなところは、文理融合 (13学科) でどこかの学科に属している訳でなく、文系と理系で二つの専門、二つの修士号をとるところ。そしてフューチャー・デザインは最後に「政策提言」を行う。
興味をひいた概念は「ネガティブケイパビリティ」と水口氏が発表した「Fantasy Future Design」。
「ネガティブケイパビリティ」は、答えの出ない事態に耐えうる能力のことで、私もそうだが受験のための教育を経ているとどうしても「正解」があるという前提で物事を考えがちになり、「正解」がないと不安になる。それを乗り越える力が「ネガティブケイパビリティ」ということだろう。
フューチャー・デザインでは、仮想将来世代人間と現代世代人間が議論を行い合意形成を行うが、合意形成が難しいなどの欠点がある。「Fantasy Future Design」は、地球人の視点を捨て、仮想の地球の現在と未来をよそ者 (宇宙人) の視点で議論する。利害関係のないよそ者の視点をもつことで、現在の視点と将来世代の視点を同時に持てるという利点がある。
「フューチャー・デザインの政策応用の可能性と効果」原圭史郎 (日本学術会議、東京財団政策研究所、大阪大学大学院工学研究科)
政策応用は、2015年に岩手県矢巾町で初実践され、
「仮想将来世代の創出」というレポートにまとまっている。 現世代と仮想将来世代の交渉、合意形成を行った結果、多くの将来案が採用された。 2017年には、グループを分けるのではなく「個々人での視点移動」という取り組みを行った。その結果、提案施策が、最初はハコモノ改善というものが中心であったのが、生活の質、現在・将来の関係性を配慮したものに変わっていった。2018年から本格的な応用が始まり、2019年には矢巾町総合計画 未来戦略室ができたほか、吹田市、京都市にも広がった。
「ニューロサイエンスを活用したフューチャー・デザイン研究」青木隆太 (首都大学東京)
fMRI を用いて、フューチャー・デザインを行っている時の脳の働きの違いを調べた。ひとりISDG (ABゲーム) をMRI内で実施した。将来から考える実験群と、現在から考える対照群で、rTPJ (右側頭頭頂接合部) に違いが出た。
全体ディスカッション (モデレーター:小林慶一郎 (東京財団政策研究所))
もともと小林氏の総括的な発表の予定だったが、時間も少なくなってきたので全体ディスカッションに変更。みなさん色々言いたい人がたくさんいるコミュニティのようで、盛り上がっていた。私も結構質問する方で、今回もSDGsに関してどう思っているのか聞きたかったのですが、遠慮しました。
興味深かったのは、宗教とFDの関係についてのコメント。最初の発表であった社会的持続性はこれまで宗教の機能としてあったものではないかというもの。そうするとFDは科学的ではあるけれども新しい宗教ということになる。宗教とみなされると既存宗教から、その信奉者からは避けられてしまうだろう。むしろ既存宗教の中に組み込まれるような、フューチャー・デザインの論理武装が必要じゃないかと感じた。