年末からチョムスキーの「お節介なアメリカ」を読んでいる。本当は年内に読み終えられる量なんだけど、今日読み終わった。
チョムスキーが2002年9月からニューヨークタイムズ通信社の配信で定期的に配信していた評論を集めたもの。「ニューヨークタイムズ通信社」ということは、「ニューヨークタイムズ」本紙ではないということ。主に海外で掲載され、米国内ではわずかな地方紙のみで掲載されたに過ぎないという。だからアメリカ国民のほとんどはチョムスキーの著作を購入しないと読めない。買ってまで読もうと思う人にしか、というのはチョムスキーがどういう人でどういう立場で発言をしていて知った上で読む人にしかチョムスキーの言葉はとどかない。言い換えれば、普通の人は、チョムスキーの指摘する事実を知らず、政府、マスコミのプロパガンダをそのままうけいれているということだ。
それは日本人も同じ。
さて内容だが、それ自体はもちろんこれまでの立場を継承したもので、
・アメリカは世界最大のテロ国家だ。
・アメリカは自分に都合の悪いルールは守るつもりはない。
・アメリカは自分に都合の悪い民主主義を認めない。
(アメリカの認める民主主義は国民の利益ではなくアメリカの国益 = 政府のバックにいる企業、利権団体の益にかなったもの)
ということを批判しているものだ。
ただ、事実に基づいた考察、批判なので、そのなかにも私にとって新しい知識が含まれている。
以降では、そのような新しい知識になった部分をメモしておこうと思う。
終着点の見えないパレスチナ問題 (2003年8月18日)
アラブ諸国その他の地域で、米国政府がイスラエルや、国内の親イスラエル圧力団体(実際はユダヤ人だけの団体では全くない)に服従しているという錯覚がはびこっている。私からみれば、「アメリカはいつもイスラエルの好き勝手な振る舞いを許している」という考えは深刻な誤解である。
イスラエルは、過去30年にわたってとってきた政策のせいで、自国の選択肢をかなり狭めてしまった。現状では、イスラエルはこの地域でアメリカ軍基地となり、アメリカの要求に従うほかに、とりうる道はほとんどない。それが誤解なら私もその一人だ。
これが誤解なら、アメリカにとってはそのほうがまだ有利なのだろう。「アメリカはイスラエルさえコントロールできない」と思われている方が「アメリカはイスラエルを使って中東諸国に介入している」と理解されるより。
9・11とテロの時代 (2003年9月2日) 注1
この空爆[アフガニスタン空爆]は、反タリバン派の中心的存在であるアフガニスタン人から激しく非難された。アメリカがひいきにしているアブドル・ハクまでもが、「軍事力を見せつけるためだけに」罪のないアフガニスタン人を殺し、自分たち自身の手でタリバン政権を内部から転覆しようとする彼らの努力を台無しにしたりしないでほしいと米国政府に嘆願した。いまにして思えば、これは実現の可能性があったのだ。またここには、米国政府の目標がビン・ラディン一味の引き渡しを求めることから、タリバンを倒すことに変わったことにも言及されている。
反米へと傾く南アメリカ (2005年12月5日)
「ベネズエラは、こうして今日もマサチューセッツの家庭の暖炉の火を守っている。というコピーの全面広告が、最近アメリカの主要新聞各紙に掲載された。この広告はベネズエラの石油会社PDSVAとヒューストンにあるその子会社CITGOが出したものである。この広告が説明しているのは、ベネズエラの大統領ウゴ・チャベスが奨励するプログラムで、ボストン、サウスブロンクス、その他の所得水準の低い地域に向けて、同国が暖房用の灯油を格安で提供するというものだ。この試みは。これまでの南北アメリカの対話の中でも、最も皮肉な振る舞いのひとつである。チャベスは言動をもう少し控えめにしないと、アメリカの攻撃対象となる虞れがあると思っている。なにしろ攻撃の経済的な動機は十分あるのだ。しかしこのような取り組みがあれば米国の世論も味方につけられるだろう。この取り組み自身はもともと米国の上院議員の一部グループからの要請で始まったものだそうだが、その機を生かし、さらに広告を用いて戦略的に生かすことができるのなら、戦争の危惧も少なくなるのではないか。言動を控えめにする一方で、貧民層を中心とした自国民、他の南米諸国、米国民など味方を増やすことで、平和と経済発展を維持して行ってもらいたいと切に思う。
超大国アメリカからの独立 ー アジアと米州の地域統合 (2006年3月7日)
キューバの医療支援は、ベネズエラ以外の国々でも歓迎されている。近年起こった最もすさまじい悲劇のひとつは、昨年10月 (2005年) のパキスタン地震だった。...
キューバはパキスタンに最大 [注: 1000人以上] の医師団と救急隊を派遣している ... 彼らは、西側の救援チームが撤退したあとも、人里離れた山村に残って「凍てつくような気候と、自分達とは異質な文化のもと、テント生活をしながら」働き続けていたというキューバの医療が充実していること、海外に医療スタッフを派遣していることは知っていたが、このような活動まで行っていることは知らなかった。唯一残っている共産主義国キューバのこのような取り組みが米国でもっと知られれば、米国政府もキューバを敵視することは出来なくなるのではないだろうか。
■ 追記: 「おせっかいなアメリカ」に関して書かれた記事
梟通信〜ホンの戯言: アメリカ人よ目を覚ませ ノーム・チョムスキー「お節介なアメリカ」(ちくま新書)
-- アメリカ大統領選挙に向けて、米国民の賢明な選択を期待しています。
6 件のコメント:
“追記”グッと期待しておりますっ。
チョムスキーは興味深い人ですね。友人に言語学者が多いので、言語学を基盤とする社会哲学みたいなものを随分色々話し合ったことがあります。下のヒロさんの記事と少し関係があるかもしれませんが、彼自身はユダヤ系の家庭に育っているのですが、2001年以降のブッシュ政権のようなネオコン的なアメリカのあり方を強烈に批判しているのは、おそらくこの本(これはまだ読んでいません)の通りなのではないかと思います。要は、自分の出自や信仰や信条はそれとして、その上で「自分で考えて結論を出せ」という当たり前のことを訴えているように思えてなりません。それを都合悪く感じるメディア側が、情報流出を押さえている構図を誰もが気づくようにならなければ、というヒロさんの言葉は全くその通りと思います。追記楽しみにしています。
★ つかさ組さん、追記遅れており申し訳ありません。ぼちぼちと追記して行きますので、もうしばらくお待ちを。
★ らふぃさん、私は9.11まではチョムスキーの言語学者としての側面しか知りませんでした。チョムスキーは現状のイスラエル、アメリカ政府、そしてそれらをきちんと伝えないマスコミに批判をしていますが、一方で市民の力、選挙のときだけ発揮されるものという意味ではない民主主義の力を信じていて、期待しています。その力が世界を動かすことができる、特にアメリカの国民にはその力があるし、その力を発揮すべき義務があると考えています。らふぃさんのおっしゃるように、与えられたスローガンやプロパガンダをそのまま受入れるのではなく、自分で考えることが一番大事だということを主張していると思います。
リンクありがとう。拝読して改めてチョムスキーの主張のキモを教えていただいた感じがします。
★ 佐平次さん、キモなんてそんな。チョムスキーみたいな人がアメリカにいることがアメリカの救いでありアメリカの強さなんでしょうね。
コメントを投稿