2019/08/04

マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展

三菱一号館美術館で行われている「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」のブロガー内覧会が7月31日に行われたので、参加してきました。お話はおなじみブログ「青い日記帳」のTak (たけ) さんと、担当学芸員の阿佐美淑子さん。高橋館長も最初にご挨拶があり、その後も時々お話に割り込んでいくというスタイルでした。

マリアノ・フォルチュニという人は知らなかったのですが、お話を聞いて、現代ファッション・デザインの始祖のような人だとわかりました。1900年代はじめ女性はコルセットで締め付けるスタイルが上流から中流まで広がっていた状況で、そのスタイルから解放した人の代表的な一人です。

フォルチュニの代表作が上写真左の方の黒いドレス「デルフォス」。19世紀末に発見された、紀元前5世紀の彫刻「デルフォイの御者」(右) にインスピレーションを受けデザインされたそうです。

数年後には、この上に羽織って外出することが普通になった (それまで女性が一人で外に出ることはなかった) ということです。その意味で新しい時代を作った人の一人といえるでしょう。そのあとシャネルなどが続くことになります。
デルフォスは、波型のプリーツが全体に入っています。すごく軽く、たたんで専用の箱にしまいます (左)。日本の絹が使われているそうです。

フォルチュニ自身が亡くなって作られなくなり、今では再現できないということです。特許は出ているのですが、それだけでは再現できないノウハウがあったのでしょう。洗濯もフォルチュニ社が行うようにしていて、そうしないとプリーツが消えてしまうということでした。

今回展示されているドレスは、ほとんどが日本にあるものを集めたものになっています。実はベネチアのフォルチュニ美術館には衣装はなく、むしろ日本に沢山残っているそうです。

ファッションデザインで著名なフォルチュニですが、実は画家、舞台美術設計者、染色家、写真家といったマルチな才能を発揮していて、この展覧会はそのマルチタレントにスポットをあてたものになっています。

最初は画家としてスタートしています。父も有名な画家で同名のマリアノ・フォルチュニ (「マリアノ・フォルチュニ・イ・マエサル」とクレジットされていました)。9歳の時の絵も展示されていますが、最初は下手だから入れないつもりだったのを、「9歳の時の作品」と聞いて入れることにしたそうです。

舞台装置設計では、外光と間接照明を用いたシステムで、時刻によって異なる外の光を遠隔操作で変えることができるようになっています。1900年に特許を取得し、ヨーロッパ各地で採用されたそうです。

住居の照明も手掛けていて、本当に精巧に作られているとのこと。今は制作されていないので、展示会では模造品を作って展示しているが、展示会後はベネチアのフォルチュニ美術館で展示される予定になっています。

写真家としても才能を発揮しますが、写真は外部に公開するために撮影していたものではなく、そのためあまり知られていません。しかし、様々な機材、技法を試し、また内容も芸術的な作品も多く、特によく撮影した雲の写真は芸術性が高いものになっています。

フォルチュニ社、特許という言葉が出ましたが、ビジネスマンとしてもあったということです。染織物は、1921設立の工場で同じ技術で現在も作られているそうです。

ファッションということで女性に向けた展覧会というイメージを与えますが、このようにマルチタレント、ビジネスマンという視点で見ると、男性も楽しめると思います。阿佐美氏は、「男性も楽しめるように舞台装置の設計図や模型もおいた。期待通り男性の食いつきが良かった」とおっしゃっていましたが (言葉はもっと上品に)、私は時間の余裕がなかったせいでそこはほとんどスルーしてしまいました。

10月6日までですので、まだまだ余裕があります。

マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展
https://mimt.jp/fortuny/
場所:三菱一号館美術館 (〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2)
会期:2019年7月6日(土)~10月6日(日)
開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、第2水曜、8月12日~15日、会期最終週平日は21:00まで)
休館日:月曜休館(但し、祝日・振替休日の場合、9月30日とトークフリーデーの7月29日、8月26日は開館)

2019/06/24

全身全霊塩田千春

6月20日から、森美術館で塩田千春の大規模個展「塩田千春展:魂がふるえる」が開かれている。22日、アーティストトークが行われたので、聴きに行ってきた。

塩田千春は写真で見ていたので姿は知っていたが、声は初めて。なんとなくどっしりした声を予想していたが、予想と違ってかわいい声でした。

アーティストトークはいつまでたっても慣れないということで、最初は緊張した感じだった。アーティストトークは過去の作品をスライドで見せて、制作意図や手法など語っていればいいのにね、と思っていたのだが、塩田千春のトークはそうではないことがだんだんわかる。

インスタレーションにつて語る場面では、「絵はじわじわと感じるもの、インスタレーションは直観に訴えるもの」という。そして、「インスタレーションはその場で苦しんで作る」ものと語る。同じように見える作品でも、その場によって変えていく。同じテーマで3年くらい続ける。後でキュレーター片岡真実 (森美術館副館長) との対談では、苦しみが見た人にも伝わるということも言っているし、毎回失敗したと思うところが出てくるので、次の展覧会ではそれを直していく。

今回驚いたのは、がんとの闘病の中でこの展示会を立ち上げてきたということだ。今回の展覧会が決まったのが2年前で、その翌日、がんの再発が発見された。最近のがんは日帰り入院・手術ですぐに治るイメージもあるが、抗がん剤で髪が抜け始めているときの写真などを見ると「闘病」という言葉が容易に想起される。

その闘病も、普通だったら仕事を休んでじっくりということになるが、塩田千春の場合はそうならない、今回の展覧会の準備をしなきゃというのではなく、今病気の自分が作らないといけないものがあるという感じだった。後の対談で制作の原動力を問われて「アーティストは作ることしかない」と答えたように、人生そのものがアートなのだとわかる。

ただ、片岡真実によれば、この時期に作られた作品は「病気」を直接出したもので、そのままではまだ作品として出せるレベルではなかったという。まだ時間があるからと何度もダメ出しした。こんなにダメだしした展覧会は今までにないというのが面白かった。

アーティストとして作品に全身全霊を傾ける自分がいる一方で、「母親としての自分」もいる。これからどうやって生きていくのか、娘はこの後どうやって生きていくのかを考えた。それが子ども達が「魂」に関して自分の考えを話す作品につながる。

また、会場から出た「息抜きはなにか」という質問に対しても、「自分は24時間アーティスト」と答える一方で、「これで家族にはつらい思いをさせることもある。紙の抜ける写真はダンナが泣きながら撮った」ということも語っている。

アーティストとして全生活を作品にかけたい一方で、それを支えてくれる家族がいる、そのありがたさも噛みしめているというように感じた。

対談の中では、マリーナ・アブラモヴィッチに師事していた若いころの話も出てくる。その時の苦しみも、展示会に出ている作品で伝わってくる。特に ”Bathroom” は、バスルームで延々と泥をかぶり続ける作品で、どうしてこんなことまでと思う。本人も、今見ると辛いという。今は泥をかぶらなくとも言いたいことを表現できるようになったそうだ。

今塩田千春というと「糸を使った作品」というイメージが想起されるのだが、展覧会は若い時の作品もあり、塩田千春の全体像が見られる展示会になっています。

塩田千春展:魂がふるえる
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/shiotachiharu/index.html
会期:2019年6月20日~10月27日 (会期中無休)
会場:森美術館 (東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
開館時間:10:00~22:00(最終入館 21:30)
※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
※ただし10⽉22⽇(⽕)は22:00まで(最終⼊館 21:30)
料金:一般 1800円 / 65歳以上 1500円 / 高校・大学生 1200円 / 4歳~中学生 600円

2019/04/09

不審メール

朝からこんなメールが来てて慌てました。


Apple アカウントにモザンビークからログインがあったので、アカウントをロックしているとのこと。早速この「検証」というところに行きました。


早速対応しようとしたのですが、URL を見たら
https://yaelah-tumang-susahbener-verifycation5533.jp/account/... (上記はID消去済み)
と、全然アップルと関係ないじゃないですか。危うく引っかかるところでした。

ちなみにAppleの本物のサイトは、


全く同じですね。ただこちらは普段使っているところなので、IDがあらかじめ入っています。

元のメールを見ると、@yahoo.co.jp のアドレスに来ているし、また送信者 (Appleと青反転で示されているところ) もアップルとは関係ないアドレスでした。

よく考えたら2ファクタ認証も導入しているので、パスワードが破られても自分のiPhoneに認証コードが表示されるはずでした。慌てているとそれも思い至らなかったのでした。

皆さんご注意ください。2ファクタ認証は必須ですね。

2019/04/02

新元号についてちょっと語っとくか

4月1日、新元号「令和 (れいわ)」が発表されましたね。号外をゲットするべく新宿まで行ったのですが、配布の場所とタイミングが合わず、入手できませんでした。あとでニュースを見ると、かなり混乱があったようなので、負け惜しみが言いやすくなってよしとしましょう。本当は「歴史の証言者」シリーズに加えたかったのですが。

平仮名にすると3文字というのは予想していたのですが、「令」の文字と「和」の文字はいずれも予想外でした。「和」は「昭和」でも使っていたし、「令」は初めてなんですね。これを聞いて最初に浮かんだのが次のツイート。
これまで中国古典を依拠していたものを、日本の古典からとるというのは、安倍首相が可能性を言及していたようで、それ自体は「やっぱりな」という感じ。

毎日新聞  2019/04/01 新元号「令和(れいわ)」 出典は万葉集、和書初 来月1日0時施行
出典は万葉集の「梅花(うめのはな)の歌三十二首」の漢文で書かれた序文「初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして、気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かお)らす」からとった。
「令月」と「風和ぎ」の関係が微妙。本来なら2字熟語は、「気淑く」と「風和ぎ」の対比からとか、形容詞-名詞や動詞-目的語などの関係からとるものじゃないかな。そういう意味でいうと「令和」=「和を命令する」のような印象になる。「和をもって尊しとなす」という聖徳太子17条憲法を思い出すという意味では良さそうだが、要は「揉め事を起こすな」、「不満があっても抑えろ」という「空気読め」文化の走りだよね。

ただ、「令月」の意味を引くと、
大辞林 第三版の解説 (コトバンク)
れいげつ【令月】
①  何事をするのにもよい月。めでたい月。よい月。
②  陰暦二月の異名。
と、「令」は「命令」の「令」でなく、「めでたい」とか「よい」という意味であることがわかる。そうならばやっぱり「形容詞-名詞」となる選択にしてほしかったな。まあ「和」は名詞でもあるんだけど。

ネットを見ていると、ロバート・キャンベルさんの言葉に目が止まった。

朝日新聞デジタル 2019/04/02 ロバート・キャンベルさん「国書か漢籍か、超えた元号」
「国書か漢籍かということはどうでもよく、国を超えて共有される言葉の力、イメージを喚起する元号だ」
本来の意味はどうでもよくて、新しい言葉として、新しい意味を付け加えていけばいいのかもしれない。「明治」が「維新」、「大正」が「デモクラシー」や「ロマン」、「昭和」が「復興」や「レトロ」というコノテーションであるように。

と、普段は「元号なんてやめてしまえ」派なんですが、色々考えてしまいました。

2019/01/13

(平成) 最後のオフ会

ブログを始めたのは2004年、それまでは楽天の日記やBlogger (まさにここ) に手を出していたのだけど、本格的に始めたのはExciteブログだったのです。エキブロでは続けられたのは、エキブロ内でのフォロー関係があって、ゆるい繋がりのコミュニティができやすく、その中でも良いコミュニティに恵まれたからだと思います。

そのコミュニティでは毎年オフ会をやっていて、最近は毎年という訳ではなくなったけど、昨日「(平成) 最後のオフ会」が行われました。「平成が終わるのを機に最後のオフ会を行います」ということでしたが、これはきっとまた復活すると思い、「(平成)」をつけています。

最初は15年前だったそうですが、私は初めは気づかず後になってから参加するようになりました。後になってと言っても、見直したら2005年で2年目には参加していたんですね。
にぶろぐ (2005/12/10) お腐海は世界を浄化する

TwitterやFacebookがなかった頃は、ブログのコミュニティがSNSだったんですね。今はみなさんブログはあまり更新していなくて完全にやめちゃった人もいますが、また再開する人もいました。ブログはやっぱりある程度まとまったことがかけるところがいいところで、私もはてなブックマークやTwitterの短いコメントだけでなく、もうしこしまとまったことをブログに書いていきたいと思います。

お互い近況報告をして、昔の話をしていると、あっという間に3時間近くたちます。楽しい時間でした。2時間半かけても行く価値はあったなと再確認しました。

職業や年齢、住んでいる場所も違うけど、なぜかゆるく繋がっている。そんな繋がりを今後も大事にしたいと思いました。という訳で、復活したらまた参加しますよー。

2019/01/06

Evernote 2アカウント体制

Evernote プレミアムを使っていて、Web記事のクリップも論文や雑誌記事のPDFもなんでもEvernoteに入れていたら、ノート数も4万を超え、どんどん遅くなってくる。ノートの切り替えも遅いし、一時期は入力にも追いつかない状態。

いよいよ耐えられなくなって、乗り換え先を探していたのだが、
  • テキストに添付ファイルがつけられる
  • テキストだけプレーンにもてる (OneNoteはノートにテキスト枠が複数置かれる)
  • Webから簡単にクリップできる
というのがなかなかなくて、困っていた。このまま課金に応じるのも癪なので無料版に戻し、遅いMacクライアントはやめて、Webだけで使っていた。

ただ問題はアップロード容量。以前はFreeで100MB/月だったのが、60MB/月になっている。でもまあいつもそれくらいで済んでいると思ったのだが、年末にパンフレットなどを整理するため数MB程度のスキャンデータを複数入れていたら、3日くらいで限度になってしまった。やっぱり有料版にしないとダメか。

そんな中、こんな記事があった。

Lifehacking.jp (2019/01/03) Evernoteをもう一度ゼロから始めよう
Evernoteは非常に便利なメモツールであり、ファイルの置き場であり、作業環境ですが、時間がたつほどにデータのノイズが多くなりすぎて利用しづらくなるという難点があります。
そこで今回とった荒療治が「アカウントを2つ用意して、作業用とアーカイブ用に情報の流れを分ける」というものです。
なるほど!

ただよく見るとLifehacking.jpの堀さんは両方とも有料版にしているのね。
わたしは大した出費ではないので、両方ともにプレミアムで運用しています。
一つだけでももったいないと思っていた私には真似ができない。どちらか一方だけ有料版にすると、作業用とアーカイブ用のどちらを有料版にするかな。

それから堀さんは
メインアカウントからアーカイブアカウントへは、定期的にノートを移動します。基本的には「必要のないものをざっと消してから、全部移動」という作業になります。
というやり方を取っているのだが、移動ではなくて共有にしようと思う。そうすればアーカイブの方に全部あることになるので、検索するときはどちらにあるか悩まずにアーカイブの方だけで検索すれば良い。

こんな感じ。

アカウント ノート 普段使う場所メモ
作業用 = 無料版 作業用 (共有) クライアント 軽いままを保つ
アーカイブ用 = 有料版 作業用 (共有)
アーカイブ用
Webブラウザファイルの添付はここから
検索もここから

  • クライアントでは軽くしておきたいので、作業用にする。
  • もう一方はWebブラウザで使うようにすることで、ユーザー切り替えを頻繁にしなくてすむようにする。
  • ファイルの添付を行うときは有料版から。すなわちアーカイブ用アカウントでWebブラウザから。
  • Web記事のクリップは、アーカイブ用アカウントから作業用 (共有) ノートに。
  • 読んだらタグをつけてアーカイブへ。
方針が固まったので、早速再度プレミアム登録する。今40%引きで、年間費用が3,120円。そのまま更新していたら$45だったのでこれだけでもラッキー。というか毎回継続せずに一旦Freeに戻した方がお得かもね。

今までクライアントでは新しくする作業用アカウントで使うので、これまで使っていたファイルを一旦全部消す。次のようになった。

ディスク空き容量 285.85GB → 313.8GB // 28GB か。案外少ないな。
削除数 40万項目以上 (ノート数は41400ちょっとなのに)

しばらく運用してどうなるかみてみます。

2018/12/30

キュンチョメ 完璧なドーナツを作る

12月3日、キュンチョメの「完璧なドーナツをつくる」連続上映会 #4 「トマト缶とドーナツを交換する」に行って来ました。当日の最終回です。

お代はいらないけどトマト缶を持って来てください、ということで持って行きました。一番左のやつです。トマト缶は世界中で使われているので、食糧支援に向いているのだそうです。


最終日にはこうなっていました。キュンチョメのInstagramより引用。

「完璧なドーナツをつくる」は、「アメリカのドーナツは穴が空いているが、そこに沖縄のサーターアンダギーをはめ込んだら完璧なドーナツになるのではないか」という考えをベースにしています。ただ合体させるだけでなく、米軍基地の中で作ったドーナツと、基地の外で作ったドーナツを、フェンスを越えて合体させます。そう、フェンスで分断された両国民の融合の象徴でもある訳です。

作品としては、その計画を沖縄の人に話して、それに対する意見を聞いていくことが続きます。基地反対の運動家、基地建設を請け負う建築会社の社長、米軍軍人相手のバーの女主人... と様々な立場の人の話が含まれます。

以下作品の感想です。

一言でいうととても真面目に作られている。沖縄の皆さんへのインタビューが中心だが、自分に反対の立場の人からも真摯に丁寧に話を聞いている。沖縄にも様々な立場があることが分かって良かった。

その中には、基地建設を請け負う建築会社の社長のように、立場上基地を歓迎せざるを得ない人もいる。彼は自分の意見は言わないと言っていたが (これ自身本音では反対であることを示唆しているが)、後の方で本音もでる。

米軍軍人相手のバーの女主人は、沖縄米兵少女暴行事件以降、米兵が夜間外出禁止になり、お客さんが激減したと語る。それまで仲良くやっていたのに、対立は沖縄の住民の首も締める。

別の人が証言した、以前は日米の壁があまりなかったという話も興味深かった。子供の頃は米軍の戦闘機に基地の外から花火を撃ち込んだりしていて、そんなのは痛くも痒くもないので米兵もそれを挑発していたという。


キュンチョメを知ったのはヨコハマトリエンナーレ2014の初日に、ツイッターアイコン  (@kyun_chome) のあの花輪の格好で現れた時。なんだこいつはと思ったのだけど、その後ウェブサイトを知ってみてみたら真面目に社会問題を扱うアーティストだと分かった。イロモノと思っててすみません。

2016年に駒込の倉庫で行われた個展「暗闇でこんにちは」(artscapeレビュー)で初めて実際の作品を見た。特に東日本大震災・福島原発事故を題材にした、写真から立ち入り禁止の場所を消していく作品が印象的だった。その後色々な展覧会に参加していたと思う。

2017年岡本太郎賞アーティストを集めた展覧会の作品も良かった (ブログ「ヨコトリ2017の予習として ...」 )。ヨコハマトリエンナーレ2017にも来てくれるかなと思ったが、その頃Rebornに出していたのですね。次の横浜トリエンナーレにはいるといいなと思っていたが、あいちトリエンナーレに先をこされて残念 (@ryokan tweet)。

そういえば、キュンチョメは二人組ということをウェブサイトで知ったのだけど、女性の方ホンマエリさんしか表に出てこないので、実は今は一人で活動しているのかと思っていた (Superflyみたいに)。今回ナブチさんにもお会い出来て良かった。

今後もキュンチョメの活躍に期待したいと思います。

追記:
Hyperallergic (2019/1/17) An Artist Duo’s Ingenious Movie About US Military Bases in Japan
-- More than anything, Making a Perfect Donut is about contradictions

2018年に行った美術展とアートイベント

2017年は美術館ごとにまとめたらやっぱり難しかったので、今年は日付順に戻します。
  • 2018/01/08
  • 2018/01/14
    • 石内都アーティストトーク @ 横浜美術館 (LINK)
  • 2018/01/16
    • 森美術館「カタストロフと美術のちから展」プレ・ディスカッション・シリーズ 第3回「阪神・淡路大震災から20余年:体験とその継承」@ 森美術館 (LINK)
      → ブログ「災害とアート
  • 2018/01/20
    • トークセッション 「プロトタイプとしてのアートについて考える―レアンドロ・エルリッヒ作品を通して」@ 森美術館 (LINK)
      → ブログ「哲学とは考えること
    • 野生展 @ 21_21 Design Sight (LINK)
  • 2018/01/29 
    • 靉嘔展 @ Fuji Xerox Art Space (LINK)
  • 2018/02/03
    • 「石内 都 肌理と写真」@ 横浜美術館 (LINK)
  • 2018/02/08
    • 「ルドンー秘密の花園」展 ブロガー内覧会 @ 三菱一号館美術館
      →ブログ「赤い枝を探せ
  • 2018/02/11
    • 第2回メディアアート国際シンポジウム「“アート&テクノロジー” ―創造・教育・アーカイブのために―」@ 東京ウィメンズプラザ (LINK)
    • YANG FUDONG - THE COLOURED SKY: NEW WOMEN II (彩色天空 : 新女性 II) @ エスパス ルイ・ヴィトン東京 (LINK)
    • MeCA | Media Culture in Asia: A Transnational Platform 展示会 @ 表参道ヒルズ+ラフォーレ原宿 (LINK)
  • 2018/02/12
    • ワークショップ: MeCA教育普及プログラム「コトバ身体」@ 渋谷区文化総合センター大和田 (LINK)
    • 六本木、旅する美術教室 第2回 メディアアートの見方 (LINK) Media Ambition Tokyo  @ Tokyo City View
    • DOMANI・明日展 @ 国立新美術館  (LINK)
  • 2018/02/14 @ アート・コンプレックス・センター
    • 女子美術大学 芸術学部アートデザイン表現学科 メディア表現領域 卒業制作有志展「○△□展」(LINK)
    • 細密展 密 (LINK)
    • 近江カズヒロ緊縛画展 (LINK)
    • 塩野ひとみ 個展 【私は、あなた】(LINK)
    • ACT PRINT PROJECT 2 (LINK)
    • 早川剛 個展 ~咆哮~ (LINK)  # たまたま行ったら迫力があってよかった。
  • 2018/02/16 
    • MAMコレクション+MAMスクリーン トークセッション「アーティストとアーティストについて語る」@ 森美術館 (LINK)
      → ブログ 「山本篤と千葉正也トーク
  • 2018/02/20
    • en[縁]:アート・オブ・ネクサス――第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館帰国展  @ TOTOギャラリー・間 (LINK)
    • 民俗写真の巨匠 芳賀日出男「伝えるべきもの、守るべきもの」@ 富士フイルムスクエア (LINK)
  • 2018/02/23
    • 生誕140年記念特別展 木島櫻谷 PartⅠ 近代動物画の冒険 (LINK) ブロガー内覧会
      → ブログ 「木島櫻谷展
  • 2018/02/28
    • レアンドロ・エルリッヒ展 @ 森美術館 (LINK)
  • 2018/03/11
    • 「カタストロフと美術のちから展」 プレ・ディスカッション・シリーズ 第4回 「フクシマ2011-2018」
    • FACE展2018 @ 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 → ブログ「FACE展2018 オーディエンス賞
  • 2018/04/02 
    • 沢田教一展-その視線の先に @ 横浜高島屋 (LINK)
  • 2018/04/03
    • グッドデザイン・ロングライフデザイン賞トークイベント「時代を超えるデザインが持つ力」@ 東京ミッドタウン
  • 2018/04/11 
  • 2018/04/18
    • グッドデザイン賞スペシャルトーク「いま、デザインに美しさは求められているのか」@ EDGEof
  • 2018/04/23 
    • 「ターナー 風景の詩」プレス内覧会 @ 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 → ブログ 「ターナーとサブライム
  • 2018/05/04
    • 生誕150年 横山大観展 @ 東京国立近代美術館 (LINK)
  • 2018/05/23
    • 建築の日本展 @ 森美術館 (LINK)
  • 2018/06/17
    • ターナー @ 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
    • メディア芸術祭
  • 2018/06/18
    • ジム・ダイン展 @ Fuji Xerox Art Space (LINK)
  • 2018/06/22
    • ヌード展 @ 横浜美術館
  • 2018/07/07
    • audio architecture展 オープニングトーク @ 21_21 Design Sight
  • 2018/07/14
    • モネ それからの100年 @ 横浜美術館 → ブログ「モネの遺産
  • 2018/07/16
  • 2018/07/21
    • 建築の日本展 @ 森美術館
    • まちと美術館のプログラム「MAMプロジェクト025」関連プログラム トークセッション「アートはどうやってつくられているのか?」(LINK)
    • 久門剛史「トンネル」@ OTA FINE ARTS (LINK)
    • Pieter VERMEERSCH @ Perrotin Tokyo (LINK)
  • 2018/08/14
    • Kevin Jones "Stellar Rays" @ Art Lab TOKYO / AKIBA
  • 2018/09/21 
  • 2018/09/30 
    • 新・今日の作家展 定点なき視点 @ 横浜市民ギャラリー (LINK)
  • 2018/10/16
    • 河野さおり個展 “ Multitude” @ Art Lab TOKYO / AKIBA
    • 「10年1日」高橋菜々個展 @ Art Lab TOKYO / AKIBA
  • 2018/10/21
    • 黄金町バザール
    • ブレイクイク初夜 (牧田恵実×川合喬太の二人展) @ アートライブギャラリーソコソコ (LINK)
  • 2018/10/27
    • DESIGN TOUCH CONFERENCE @ 東京ミッドタウン (LINK)
      • JAGDA新人賞2018デザイナートーク「コミュニケーションのみらい」
      • we+「コンテンポラリーデザインはみらいを夢見ることができるのか?」
      • 東京ミッドタウン・デザイン部 トークセッション 「鹿児島 睦×設計事務所ima(小林恭+マナ)」
      • アルスエレクトロニカ|みらいの働き方
    • Swell @ ミッドタウン・ガーデン
    • Salone in Roppongi vol.6 2018 @ ミッドタウン・ガーデン
    • 深瀬 昌久 写真展「総天然色的遊戯」@ FUJIFILM SQUARE (LINK)
  • 2018/10/29
    • 第一回白鯨会展 (牧田恵実個展) @ Art Lab TOKYO / AKIBA
    • イラストレーション ウェーブ VOL.1 2018 @ (LINK)
  • 2018/11/02
    • 小倉遊亀展 @ 平塚市美術館 (LINK)
  • 2018/11/03
    • GOOD DESIGN EXHIBITION 2018 + 国際デザイン&広告賞 D&AD賞 特別レクチャー (LINK)
    • SHIMURAbros 「Seeing Is Believing 見ることは信じること」@ POLA MUSEUM ANNEX (LINK)
    • ベルトラン・ラヴィエ「Medley」@ エスパス ルイ・ヴィトン東京 (LINK)
  • 2018/11/07
    • NANOOK "MIDDLE SCHOOL" @ Clear Gallery Tokyo
  • 2018/11/15
    • カタストロフと美術のちから展 @ 森美術館 (LINK)
  • 2018/11/21
    • 東京ミッドタウン・デザイン部「ミッドタウン・クリスマス|イルミネーションのクリエイティブを知る」@ 東京ミッドタウン・デザインハブ
  • 2018/11/26
    • 星川菜々美 shoujo展 @ Art Lab TOKYO / AKIBA
  • 2018/11/27
    • トークセッション「これからの『クリエイティブ』な仕事を考える」@ 武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ
  • 2018/12/04
  • 2018/12/14
    • Christmas Art Fair @ フジギャラリー新宿 # 早川剛氏の作品があると聞いて
  • 2018/12/17
    • ピエール・ボナール展 @ 国立新美術館 (LINK)
    • 雪舟国際美術協会展 @ 国立新美術館 (LINK)
    • LONG LIFE DESIGN 1 〜47都道府県の健やかなデザイン展〜 @ d47 Museum
    • 企画展示「南総里見八犬伝」@ 川本喜八郎人形ギャラリー
  • 2018/12/21
    • "WE ARE LOVE photographed by LESLIE KEE" @ POLA MUSEUM ANNEX (LINK)
    • “In Goude we trust!” ジャン=ポール グード 展覧会 @ シャネル・ネクサス・ホール (LINK) # もっと時間があるときに行けばよかった。
  • 2018/12/22
    • リー・キット「僕らはもっと繊細だった。」@ 原美術館 (LINK)
今年個人的に良かった展覧会
  • レアンドロ・エルリッヒ展: みんなで行くと楽しい。
  • カタストロフと美術のちから展: プレ・ディスカッションシリーズに何回か行ったのでもう新鮮味はないかと思ったが、迫力のある作品群に圧倒される。
  • モネ それからの100年: モネと現代アートの関係という視点での展覧会で興味深かった。
  • 河野さおり個展 “ Multitude”: 女性の本来の強さを意識させる絵画。
  • キュンチョメ #4 ひみつの場所でドーナツを食べる: 沖縄の基地問題に対して賛成反対の立場に偏ることなく真面目に考えて丁寧に作っている。
  • “In Goude we trust!” ジャン=ポール グード 展覧会: 映像作品が多く、短い時間しか確保できなかったのが残念。下の動画は展覧会の観客の間を縫って回り移動する女性。これ何かに乗っている訳ではなく、歩いているんですよ。種明かしにスカートの中を見せてくれたんだけど、写真を撮らせてもらえば良かった  (いやそういう意味じゃない)。


R. Yoshihiro Uedaさん(@ryokan)がシェアした投稿 -

2018/09/25

第12回 shiseido art egg 賞

9月21日、「第12回 shiseido art egg 賞」贈賞式が行われ、抽選で当たって参加の招待をいただきました。

昨年第11回では、公開審査会という形で行われ他のですが (→記事「shiseido art egg 公開審査会」)、今年は審査は非公開で、さらにこの贈賞式で結果発表という形になりました。主催者側も色々模索しているのだと思います。

対象は、入選し (→ 第12回 shiseido art egg/審査結果)、今回6月から8月にそれぞれ資生堂ギャラリーで個展を行った3名です。

冨安由真 ~ くりかえしみるゆめ
佐藤浩一 ~ 半開花の庭
宇多村英恵 ~ 戦争と休日

昨年は審査会の中で作品をスライドで振り返る時間があったのですが、今年はほとんどなく、どういう作品か分からないまま審査結果を聞くことになりました。展示を見に行っておけばよかったと後悔しました。

そういう訳で事後になりますが、作品のことについてアーティストのインタビューを見てみます。


さて結果ですが、この中から、宇多村英恵さんに決まりました。

宇多村英恵さんは、受賞あいさつで以下のようなことを仰っていました。

  • これまで展覧会では毎回新作を出してきて、過去を振り返ることはなかった。今回はそれらを振り返る機会となった。
  • 初期の頃の作品は、人に見せることを意識していないもの。作品に理由を持たせない。今回初めて見た人に新しい解釈をしてもらう。

そのあと審査委員の畠山直哉氏から総評がありました。まず「3人選ばれた時点で審査は終わっていると言える。今回観客として向き合ってきた」ということでした。

印象に残ったのは、「昔自分が若い頃は、いい写真を撮る = いい作品を作るだけでよかった。今はそれだけではダメで、作品を作る上でストーリーが求められる」ということでした。畠山氏は、「今回の3名に共通するものとして、霊的なものがある。作品にストーリーが求められるという背景から来ているが、その上でどうプレイするかが勝負になる」というようなことを仰っていました (すみませんメモが正確にできなかったので多分に自分の印象も含まれています)。

冨安さんの作品は直接霊的なものでしょう。佐藤さんの作品も、遺伝子組み換えなど見えないもの、そして見えないゆえに怖いものに取り組んでいます。宇多村さんは、上記インタビューを見ると、戦争の遺産に残る人の思い (という単純な言葉で言い表せませんが) に思いを馳せていることがわかります。

他の記事を見ると冨安さんの展示も行列ができるほどの話題だったそうですね。来年またshiseido art egg 関連のイベントに参加できる機会があるかどうかわかりませんが、その時のために事前にみておきたいと思います。

三人で記念写真。左から佐藤さん、宇多村さん、富安さん。

2018/07/21

静嘉堂文庫美術館 明治からの贈り物

静嘉堂文庫美術館で7月16日から開催されている「ー明治150年記念ー 明治からの贈り物」展。その初日にブロガー内覧会が行なわれ、参加してきました。

昨年くらいに存在を知り、一度行ってみたいと思っていた静嘉堂文庫美術館。住宅地の中の大きな緑地の中にあります。



Google マップを頼りに成城学園前駅からバスと徒歩で行きました。美術館は緑地の北西にあって、このマップだと西側から入れるようになっていると思うじゃないですか。ところがついてから気が付いたのですが、西側には入口はない! ここで初めて静嘉堂文庫美術館のサイトのアクセスのページをみて、東側にしか入口がないことを知りました。入口まで約10分。入口から美術館までまた10分とだいぶ大回りをして、結局トークショーには遅れて行きました。

今回焦っていたので、敷地内をゆっくりみる余裕はありませんでしたが、庭園としても魅力的で、庭園花木ツアーも行なわれるそうです (→ 展覧会情報)。

さて今回の「ー明治150年記念ー 明治からの贈り物」展ですが、静嘉堂文庫美術館が所蔵する作品が中心の展覧会となっています。岩崎彌太郎の弟で三菱第二代社長の岩﨑彌之助と、その子で三菱第四代社長の岩﨑小彌太によって収集されたものです。今回は出品されていませんが、国宝の曜変天目茶碗が有名です。

菅原直之助「羽衣刺繍額」と「鞍馬天狗刺繍額」の説明をする、主任学芸員の長谷川祥子さん。

今回特別に写真撮影の許可をいただきましたので、拡大写真も撮ってみましたが、その細かさが伝わるでしょうか。


河鍋暁斎「地獄極楽めぐり図」は全40図ある画帖。「日本橋大伝馬町の大店、小間物問屋の勝田五兵衛が、14歳で夭折した娘・田鶴  (たつ) を一周忌で供養したいと、暁斎に制作を依頼したもの」ということです。

そのうち物語部分35図を会期中4期に分けて場面替えして展示するとのこと。全部見たい人のために展示スケジュールをお伝えします。最後の極楽往生あたりが特に有名だそうです。

7/16 (月・祝) - 7/26 (木) ・田鶴の臨終と来迎、羅人宮、三途の川の渡し舟に乗る等
7/27 (金) - 8/9 (木) ・賽の河原、旅館はりやま到着、田鶴の身支度等
8/10 (金) - 8/23 (木) ・家族との再会、芝居小屋、盛り場等
8/24 (金) - 9/2 (日) ・地獄見物、閻魔大王、極楽行きの汽車、極楽往生等

以前東京国立近代美術館で行なわれた「ぬぐ絵画―日本のヌード 1880-1945」で、明治時代に初めてヌード絵画が出展された時に、絵画に腰巻がつけられて展示されたという話を知りました。その作品はここにあったんですね。黒田清輝「裸体婦人像」です。

その後、岩﨑家に購入され、高輪本邸のビリヤード・ルームに展示されていたということです。ビリヤード・ルームは当時紳士の社交場で、岩﨑邸を設計したジョサイア・コンドルが、そこに飾る絵は肖像画でも風景画でもダメで、ヌードでなければならないと指示したそうです。

当時のビリヤード・ルームの写真もあわせて展示されていました。

明治37年 (1904) 米国セントルイス万国博覧会の休憩室に飾ってあった若冲「動植綵絵」を刺繍にした壁飾り、これは消失したのですが、その再現作品があります。元の絵の模写、下絵とともに展示されており、制作過程もわかり興味深いです。

展覧会情報
「ー明治150年記念ー 明治からの贈り物」
http://www.seikado.or.jp/exhibition/index.html
会期: 2018年7月16日 (月・祝) ~ 9月2日 (日)
休館日: 月曜日 (ただし7月16日は開館)
サマータイム開館時間: 午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
入館料: 一般1,000円、大高生700円、中学生以下無料
※ 団体割引は20名以上
※ リピーター割引:2回目以降は200円引き

右は同じ敷地にある静嘉堂文庫で、通常内部は非公開です。

2018/07/16

モネの遺産


つまり、
モネは印象派ではなく、
あらゆる現代美術の
生みの親ではないのか?
(アンドレ・マッソン)
これは、7月14日から横浜美術館で開催されている「モネ それからの100年」の冒頭に示されているメッセージ。写真は初日の14日閉館後に行われた夜間特別鑑賞会で特別に許可がおりたものです (以降も同様)。

鑑賞に先立って、学芸員の坂本恭子氏からミニレクチャーがありました。

今回の題名にある「それからの100年」は、モネ生誕100年や没後100年という意味ではなく、「画業の集大成となる《睡蓮》大装飾画の制作に着手してから約100年」ということです。今回の展示は、単なるモネの回顧展ではなく、モネとモネ以降のアーティスト26名の作品を合わせて展示し、モネと現代美術の繋がりを探るものになっています。

関連性を分類して章立てにして、モネと後世のアーティストの作品を合わせて展示しています (3章以外)。

  • 1章 新しい絵画へ—立ち上がる色彩と筆触
  • 2章 形なきものへの眼差し—光、大気、水
  • 3章 モネへのオマージュ—まざまな『引用』のかたち
  • 4章 フレームを越えて—拡張するイメージと空間
1章の前に冒頭のメッセージとともに「睡蓮」があります。それぞれ対象はきちんと描写されていますが、全体を見るとまるで抽象絵画のように感じられるということです。これまでそういう視点で見たことがなかったのですが、言われてみればなるほどと思います。

「1章 新しい絵画へ—立ち上がる色彩と筆触」。ここで「色彩」は、印象派の特徴である「筆触分割」を指します。絵の具を混ぜず、配分させて絵の上に置いてき、鑑賞者の目に入った時に元の色が再現されます。

右はルイ・カーヌの作品。なんと金網の上に樹脂絵の具で描かれており、純粋に色だけで作品を構成しようとしたものだと思います。

「筆触」は、筆の速さと力強さ。それまでの絵が筆跡が残ってはいけないとされていたのに対して、「筆触分割」のためでもありますが、大胆に筆跡を残す手法を採ります。
参考: あき @sugokuaki さん (2018/03/08)


5分でわかれ!!印象派!! pic.twitter.com/WrZsv7RXVj

「2章 形なきものへの眼差し—光、大気、水」では、形のないもの  = 通常は絵に残せないものをいかに伝えるかということがテーマになります。モネ作品では《セーヌ川の日没、冬》(1880) (右写真左)、《霧の中の太陽》(1904)などが出展されています。

チャリング・クロス鉄橋の上を走る蒸気機関車はほとんど霧の中で見えませんが、霧の中にかすかにわかるその煙から、機関車の存在もわかります。



後世の作品では、マーク・ロスコ、ゲルハルト・リヒター、モーリス・ルイス、松本陽子などが挙げられています。

右はモーリス・ルイス。絵の具を耐え流して画布に染み込ませる手法を用いて、色を何層にも重ねています。とはいえどのように製作したか詳細は不明だそうです。

松本陽子は以前私は酷評しましたが (あえてリンクは示しません)、こういう位置付けで出されるのは理解できます。

この中で気になったのが、水野勝規のビデオ作品。下写真の左が《photon》、右が《reflection》。水に映る光の反射が心地よく、8分とか9分の作品なのですが、時間があればずっと見ていたいと思いました。


「3章 モネへのオマージュ—まざまな『引用』のかたち」ではモネの作品はなく、各アーティストの「睡蓮」などをモチーフにしたオマージュ作品が並びます。モネ要素を探しながら見ると楽しいと思います。

「4章 フレームを越えて—拡張するイメージと空間」の「フレーム」は額縁のこと。通常広い視界の中から「絵にする部分」、「絵になる部分」を決めます。しかし《睡蓮》はどこを切り出しても良い部分を描いています。このために無限に続くイメージが自然に想起されます。

小野耕石の《波絵》は、アルミに貼った紙にシルクスクリーンで油性インクを載せたものを組み合わせて並べて作品にしています。組み合わせ方により形を変えられるそうです。無限に続くイメージを想起させるという点で「フレームを越えて」という章に位置付けられているのですね。

美術の窓  2018年6月号 (小野耕石 Official site 2018/05/21 「美術の窓 モネ特集です」より) によると、小野自身は、「モネから直接影響を受けて制作したことはない」と語っているそうです。ただ、モネの絵に対して「眺めている窓のサイズが違っているだけで何らイメージが変わらなかったんです」と語っていて、まさにその点で自分とモネの共通点を見出されるとは思ってもいなかったんじゃないでしょうか。

オマージュのところでも出ていた福田美蘭の作品、《睡蓮の池》(下写真左) の発想に感心しました。描いているのは、レストランから見た都会の夜景。暗いレストランの室内と遠くの夜景が繋がって池を形成し、レストランの各テーブルを睡蓮の葉に見立てているのです。そして右が新たに制作され今回横浜展から加えられた《睡蓮の池 朝》。モネの「連作」のように、同じ対象を時間を変えて見るということでした。


「モネ? もうね、十分見たから」という人も、新しい見方が得られると思います。

展示会情報
https://monet2018yokohama.jp/
展覧会名: モネ それからの100年
会期: 2018年7月14日(土) ~ 9月24日(月・休)
休館日: 木曜日(8月16日は開館)
会場: 横浜美術館
開館時間: 午前10時~午後6時
 ※ただし9月14日(金)、15日(土)は午後8時30分まで
 ※入館は閉館の30分前まで

2018/05/12

FACE展2018 オーディエンス賞

今年2月から 3月まで東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で行われていた FACE展2018では、観覧者の投票による「オーディエンス賞」という企画がありました。

私は蜂谷真須美さんの《歩》に投票しました。



歩いている人が少し透明になって、夢のような雰囲気。

選ばれるとしても最初に並んでいた受賞作のうちどれかだろうなと思っていました。

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 ニュース より
2018年04月04日 FACE展2018の「オーディエンス賞」が決定しました。(PDF)

蜂谷真須美さん2位でオーディエンス賞受賞です。おめでとうございます。

そしてオーディエンス賞投票とは別に、「オーディエンス賞」予想キンペーンというのがありまして、予想を当てた人のうち抽選で1名に複製画をプレゼントされます。それにあたり、複製画をいただきました。額入りです。


ありがとうございます。

その他気に入った作品をあげておきます。

ササキ永利子さん 《ナラダッタ》
佐藤 凱さん《網》(審査委員特別賞)
山内晃世さん 《実の現象》
内藤範子さん 《浮月》

2018/04/25

ターナーとサブライム

4月24日から東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館で開催される「ターナー 風景の詩」展。その前日にプレス・ブロガー内覧会が行われ、参加してきました。

毎日新聞 2018/4/23 ターナー展「風景の詩」新宿で24日開幕

スコットランド国立美術館群のジョン・レイトン総館長。「レイトン卿」と呼ばれていました。

最初に大きな風景画の説明があります。これらは大金持ちのパトロンの依頼で描いたもの。そういう絵は通常はつまらない絵になるが、ターナーは違い、一つの「作品」になるのです。この写真で右の絵 «ソマーヒル、トンブリッジ» のなかで所有者の邸宅は中心として描かれているのではなく、風景の一つとして、前景の水面から視線を移動させていくと現れるように描いています。

ターナーは日本では水彩画で有名です。夏目漱石の小説にも出てきますね。しかし、それだけではなく、様々な手法を使った作品があることがわかりました。左の写真は、ヴィニエットと呼ばれる挿絵です。また、版画作品も多く出しています。19世紀はじめ複製技術が発展し、その中でターナーは、自分の絵を買えないような一般市民にも親しんでもらうため、そしてまた版画も表現は違うが芸術作品として認識しており、積極的に取り組みます。そういえばロートレックも同じような考えで版画に取り組んでいたのでした (→ パリ・グラフィック展)。

版画も、ライン・エングレーヴィング、メゾティント、エッチングなど様々な方法を使います。描き方も、ハイライトを出すため一旦塗ったところを削るスクレイピングアウトやスクラッチングアウト (違いはよくわかりませんでした) など様々な技法を用いています。作品で使っている技法や画材の解説がキャプションの横に掲示してあります。それを読んでいくのも楽しいと思います。

イタリアの風景の章では、当時イギリスの上流階級の子弟の卒業時の卒業旅行としてイタリアへ行くことが流行し、これをというと言っていました。スコットランドやウェールズの風景の章では、厳しい自然を目の前にした時に感じる「崇高」(サブライム) という概念が出てきます。

そう、グランド・ツアー、崇高 (サブライム)、そしてピクチャレスクは、一昨年受けていたオンライン講座「今だからこその江戸美術」で学んだキーワードだったのです (→ ブログ 『「今だからこその江戸美術」受講修了』。受講時PCの画面では具体的な作品をじっくりと見ることができなかったので、今初めて知識が繋がった感じです。

このあたりのことを、内覧会でレイトン卿と交互に解説された福島県・郡山市立美術館の富岡進一氏 (右写真) が語っておられます。

毎日新聞 2018/4/23 「ターナー 風景の詩」展 あす開幕 自然の崇高さ、畏敬の念込め 福島・郡山市立美術館主任学芸員 富岡進一さん

郡山市立美術館は、この巡回展がこのあと最後に行くのですね。

ストーンヘンジを描いた作品もありました。右はターナーが描いた作品。左はそれを版画にしたものです。

なお、写真は美術館の特別の許可を得て撮影したものです。

以下、美術展の情報です。

「ターナー 風景の詩」展
https://turner2018.com/
<会期> 4月24日(火)~7月1日(日)月曜休館(ただし4月30日は開館)
<会場> 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 http://www.sjnk-museum.org/
    (東京都新宿区西新宿1の26の1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階)
<開館時間> 午前10時~午後6時
    (ただし5月9、16日、6月26~30日は午後7時まで)
<入館料> 一般1300円▽高大生900円▽65歳以上1100円▽中学生以下無料


2018/04/15

蓮沼執太: 〜 ing

" 〜 ing" は「カライング」と読むそうです。"〜”が「カラ」

銀座資生堂ギャラリーで行われている「蓮沼執太: 〜 ing」展のブロガー内覧会が 4月11日に行われたので行ってきました。

"〜" は関係性の象徴。様々な関係性を表したいとのことです。そういえばRで学習するとき、説明変数群Xと目的変数yの関係を  "y~X" で定義しますね。

そして "ing" は進行形であることはもちろんですが、その他に  "Thing" や "Being" などと繋がります。

内覧会前に会場に入ってまず驚くのが、床に敷き詰められた金属のパーツ。何も置かれていない、いわば通路のようなところもあるのですが、金属のパーツの上を歩いても良いそうです。

そして壁は凹凸の鏡面。写真をとるときに対象だけに焦点を当てて周辺はボケにするテクニックがあるのですが、テクニックがなくてもそんな感じになります。

この作品は «Thing~Being»。人が歩くことで音がなります。これは人が存在する (Being) の証明です。鏡面に映る自分、そして他の観客の姿も、そこに人がいる証明になります。

この金属は、ヤマハの楽器工場で出た廃材だそうです。音楽のメタファを壊す「リモデル」というシリーズの最新作になります。楽器でないものを使うことがフロンティアだと語ります。なるほど、元々は楽器でなかったものを楽器にしたスティールパンなどのような例もあることを思い出しました。

内覧会の間は人が多くてやっていませんでしたが、資生堂ギャラリーの人が、時々散らばった楽器部品を整えます。

«Ginza Vibration» は、この部屋の天井から床に映し出される映像と、天井に設置されたスピーカーからの音を組み合わせた作品。その映像と音は、すぐ近くの資生堂銀座ビルの屋上ガーデンに設置されているカメラとマイクから拾っていて、特に昼間は工事の音が拾われるとのこと。変わっていくもののメタファということです。

«Tree with Background Music» はスピーカーから出る音で木の枝が揺れることで、音の可視化を試みた作品です。時折大きな音がなり、大きく揺れます。

蓮沼氏は、楽譜も可視化だし、波形も可視化だと語ります。展覧会の入り口にある「ごあいさつ」には、その右に単語それぞれを波形で表現したものが示されていました。

そのそばにある作品 «We are Cardboard Boxes» (僕達は段ボール箱) は、重ねた段ボール箱から時折音がなるもの。蓮沼氏は、「ただ箱から音が出るだけ。真剣に見るような作品じゃない。僕なりのユーモア。」と語っていました。

入り口の階段の天井に投影されている作品は «Walking Score in Giza»。銀座の街で歩きながらマイクを転がして音を録ったもの。街でマイクを転がしている様は、パフォーマンスをしているとも言える。蓮沼氏によると、この原点はフィールドレコーディングで、「環境を観察する。聞くことは意識すること」とのことでした。

このように蓮沼の作品は、いずれも音を使ったものです。というよりも私は、蓮沼はミュージシャンだと認識していました。最初に蓮沼を知ったのは、ヨコハマトリエンナーレ2011のピーター・コフィンの «Music for Plants» で、植物のための音楽を奏でるイベント (shutahasunuma.comより) としてでした。残念ながらそれはテニスコーツの回にしか参加できなかったのですが、その後も蓮沼執太という名前は気になっていました。時々アート系のニュースなどで名前が出てくるので、ヒットチャートに出てくるような音楽家ではなく、アーティストとしての音楽なんだと理解していました。今回の展示会では、音楽以外の仕事を知ることができ、また本人とも直接話ができて良かったと思います。

展示会情報
蓮沼執太: 〜 ing
http://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/
会期:2018年4月6日(金)~6月3日(日)(毎週月曜日は休館)
会場:資生堂ギャラリー (東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
料金:無料

2018/03/11

フクシマ2011-2018

3月11日、東日本大震災から7年後のこの日、六本木アカデミーヒルズで、森美術館「カタストロフと美術のちから展」プレ・ディスカッション・シリーズ第4回「フクシマ2011-2018」が行われました。

この「フクシマ」という表記は、当然福島第一原発の原発事故を思い起こさせます。登壇した森美術館キュレーター近藤健一によれば、
福島: ニュートラル
フクシマ、または、Fujishima: 原発事故という文脈で使う
ふくしま: 「復興」という文脈で使う
という使い分けがあるそうです。

今回「フクシマ」という表記を使っているからには、地震全般ではなく、原発事故にフォーカスした話になります。

今回Chim↑Pomから卯城竜太氏が登壇しましたが、Chim↑Pomは震災の1ヶ月後に事故現場の近くまで行って《Real Times》を発表し、岡本太郎の『明日の神話』に原発事故を象徴する絵を付け足すというゲリラアートを敢行し、そして2015年から福島県の帰宅困難地域で行われている誰も見ることができない国際展 "Don't Follow the Wind" の中心メンバー。

卯城氏は、当時の心情を、熱狂みたいなもので、「負け戦に挑む」気持ちと表現していました。ユーモアを含んだ作品にしたいという当時の思いを語りしました。そして今、その時に受け入れられていたユーモアが入れにくい状況にあると語っています。

福島県立博物館主任学芸員の小林めぐみ氏は、「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」について語ります。「はま・なか・あいづ」は福島県を大きく3つに分けた地域、浜通り、中通り、会津のことです。直接原発の事故で被災した浜通り、浜通りから避難してきた人がいる一方で自身も放射能の影響に怯え自主的に別の地域に避難する中通り、両方の地域から被災者を受け入れる会津地方。この3者に微妙な分断が生まれます。他県から「フクシマは大変ね」と同情される時、会津の人の中からは「いや会津は大丈夫だから」という声も聞こえてきたそうです。他の地域を助けなければいけないという気持ちの一方で、彼らとは違うと言いたい心情。

文化連携プロジェクトでは、福島のイメージのプラスへの転換、「記憶の記録」、「場を作る」ことなどがテーマです。「場を作る」は、「いわき七夕プロジェクト」などがありますが、分断された被災者をつなぐ意味があるようです。被災者は、緊急避難所から仮設住宅、そこから復興住宅に移るというように、何度もコミュニティからの断絶を経験することになり、新しいコミュニティに入るのに大きなストレスを経験します。コミュニティの分断、そのケアとしてのお祭りは、2016年に行われた東日本大震災5周年国際シンポジウム「大惨事におけるアートの可能性」(これは今回のプレディスカッションシリーズの1回目でもあったのですね) でも取り上げられました。

今回の話の中で出てきた最も大きなキーワードは「分断」だと思います。卯城氏は「阪神淡路大震災の時子どもだった人に話を聞くと、友達がみんな一緒で楽しかったという。阪神はそんな思い出話になっているが、福島はそうなっていない。福島は分断されている感じ。誰が当事者として福島のことを語れるのか、誰もが自分がやっていいものかと考えている」と語りました。

当事者の話は、阪神淡路大震災を扱った、プレ・ディスカッション・シリーズ 第3回「阪神・淡路大震災から20余年:体験とその継承」(→ 「災害とアート」) でも出ましたが、今回はまた違う印象があります。

それが、もう一つ重要なキーワードと思われる「加害者」でしょう。卯城氏は「ヒロシマは加害者がはっきりしている。しかしフクシマは加害者が特定しづらい」と語ります。当然、東電であり、原発を推進してきた政府なのでしょう。しかし今また政府は原発を推進する立場で、その中で東電の責任は十分果たされているとはいえず、また十分追求されているともいえない状況にあります。小林氏は「これまで原発を容認してきた我々も加害者と言える」と言っています。これまで原発がなければ日本が成り立たなかった時期は確実にあって、そしてそれは自分のそばにないことで容認していたのではなかったか。このように誰か一人を悪者にしてそれ以外の人たちが一致団結する構図ができにくいのです。

これまでと違って、被災者とそうでない人の間にも「分断」があります。「福島の農産物はたとえ放射性物質が検出限界以下であっても危険、食べるな」と主張する人たちがいるのです。一方で福島県以外の産地の農作物に関しては何も問いません。これは福島県の農家の人々を「加害者」とみなしていると言えるでしょう。

また、原発自体に対しての今後の扱いは、危険性と必要性を天秤にかけて議論すれば良さそうなものですが、原発反対派の人たちと、その反対「反・反原発」派の間にも分断があり、その間では、冷静な議論になっていません。「原発推進」派や「原発賛成」派と書かずに「反・反原発」と書いたのは、その人たちの行動原理がもはやイデオロギーになっていると見えるからです。(たとえば、「彼らが反対しているということは、原発は必要だということ。」)

アートの力として、被災者に寄り添う、再び立ち上がる力になるということがあると思いますが、こういう状況に対してアートは何が提言できるのか、私が答えを出せるわけではないので、今後もウォッチしていきたいと思います。

2018/03/04

哲学とは考えること

哲学って何だろうね。

哲学とはソクラテスとかプラトンなどの昔の哲学者が語ったことを学ぶことだと思っていました。自分が理系なので、じゃあ大学ではどういう研究をやっているんだろうねと思っていたのです。

昨年、森美術館で「現代アートと哲学対話」というイベントが行われました。「現代アート」は「分からない」ものの代名詞、「哲学」も「分からない」ものの代名詞、さぞや分からない禅問答が行われるんだろうなと思い、参加しました。

ラーニング・キャンプ004 「現代アートと哲学対話―新しい学びの可能性」

お話をされた河野哲也氏 (立教大学文学部教授) によると、私が考えていたようなものは「古い哲学」で、1970年代以降「哲学プラクティス」という考え方が起こってきたそうです。子どもや一般の人が参加する哲学。「哲学カフェ」(Wikipedia) という場所が250以上もあるそうです。

何をやるのかというと「哲学対話」。あるテーマについて対話を通して深く考える。相互理解を進め、自分の思考も深める。

「哲学」とは思考の深さのことで、何でも掘り下げると哲学になるということです。

なぜ哲学が必要なのかということに関して、

  • 探求には終わりがないこと
  • 分野を超えた全体を考えないといけないこと
  • 専門知の問い直しと創造
が挙げられていました。

この二番目は、大阪大学の総長鷲田清一氏が2010年入学式の告辞で、複雑な時代、専門分野が細分化した時代に、複雑化した問題を解決するために、異なる分野の専門家がお互い協力して行かなければならない、そのために教養がいる、ということを述べられましたが、それに通じるものと思います (大阪大学サイトに2010年度の告辞はないのですが、2011年のものはあり、やはり同じようなことが述べられています)。

その後、参加者はグループに分かれ、「哲学対話」ミニ体験を行いました。テーマは「なぜ美術館に行くのか」。自分で考えると「自分でアート作品を買えないし置く場所がないから」で終わってしまうのですが、みなさんそれぞれの体験から、場としての重要性、和kざわざ「行く」ということの意味などが語られました。

 「哲学」は難しいという概念が変わり、誰でもできるということが分かりました。

1月20日、やはり森美術館で行われた、トークセッション 「プロトタイプとしてのアートについて考える―レアンドロ・エルリッヒ作品を通して」に参加しました。単なるアーティストトーク、対談と思っていたら、ここでも哲学でした。アーティストのレアンドロ・エルリッヒとともに登壇したのは、哲学者のエリー・デューリング パリ第10ナンテール大学准教授。「プロトタイプ論」はデューリング氏の理論なんですね。

レアンドロ・エルリッヒ作品には、創り上げるという側面とパフォーマンスの側面がある。る、作品に入る、写真を撮る、これも作品の一部である。ここあたりはよく分かりましたが、プロトタイプ論が何か分からないので、レアンドロ・エルリッヒ作品との関連はよく分かりませんでした。アーティストの頭の中に様々な可能性があって、具現化で可能性を切り離し、ひとつを見せているというのがプロトタイプのようです。

プロトタイプ論をインターネットで調べていたら、エリー・デューリング氏を含む鼎談がありました。
やっぱり難しいです。

そんな中、スーパーヒーローと哲学しよう! というオンラインコースがあり、受講してみました。

アメコミのスーパーヒーローを題材に様々なことを考えようということで、「スーパーヒーローで哲学しよう! 」と言った方が良かったかな。

最初の問題はスーパーヒーローが正体を明かさないことの倫理です。正体を明かさないこと自体は問題はないかもしれないですが、そのために周囲にいる家族や職場でウソをつく必要もあるでしょう。少なくとも聞かれたことを正直に答えないでしょう。そういう倫理観を問題にします。

考えることが大事で、答えはありません。レポートも自分のスーパーヒーローを作って、「そのヒーローならこんな時どうする?」というのを毎回 (全4回) 提出します。

右はヒーローマシーンというサイトで作りました。この人は変身や変装をしたりせず、見えない超能力で問題を解決します。

このオンラインコースに関しては一通り終えましたが、哲学的概念が消化しきれていないので、用語を検索しながら見直そうと思います。また別に記事にするかも。

2018/02/25

NTTドコモ・ベンチャーズ DAY 2018

先日休みを取って、NTTドコモ・ベンチャーズ DAY 2018へ行ってきました。

NTTドコモ・ベンチャーズは、NTTドコモの子会社ベンチャーキャピタルで、発足から5周年になるとのこと。

大企業では、イノベーションは起こりにくい。そのためにはベンチャーの力が必要だ。そいう思いが伝わってきた。

ただ、NTTからみたらNTTの移動体通信を担当していたドコモも当時はイノベーションを司っていたと言えるのではないか。

そういうドコモもやはりNTT出身者で成り立っていた会社で、自社だけでイノベーションを起こすのは難しかったのかもしれない。iモードはベンチャーからの提案で始まっている。この辺りの物語は日経エレクトロニクスの連載で知ることができる。

iモードと呼ばれる前
第1回:2人が出会わなければ…  (初出 日経エレクトロニクス2002年8月26日号)

物語は1997年6月25日から始まる。コンパクトなHTMLブラウザを開発しプレゼンテーションを行いにきたACCESSの鎌田。俺は騙されないぞと的確な質問をするNTTドコモのエンジニア永田。...

この物語は、端末メーカー、コンテンツ提供者など、だんだん協力者が増え、iモードのローンチに繋がっていく。物語の王道だな。「ドラゴンボール」は通しで読んだことはないけれど、そんな感じではないか。最近だと「陸王」にワクワクしたのを思い出す。

このあたりのことをキーマンの一人松永真理は「人の覚悟は伝染します」と語っている (日経エレクトロニクス2003年3月3日号 (→ 国立国会図書館リンク) )。

この成功体験はNTTドコモの記憶に刻み込まれているのではないだろうか。iPhoneでスマートフォンという新しい地平を開いたアップルに遅れをとった今、NTTドコモは、ベンチャーの力が必要だということを思い出し、新しい展開を求めているだと思う。

通常の大企業も、「自分たちの力ではダメだ」ということは気が付いているだろう。オープンイノベーションに取り組むところも増えてきた。しかしまだ成功事例は少ないのではないか。取り組みの本気度が違うのではないかと思う。

ベンチャーと組んでイノベーションを起こした成功体験をもつNTTドコモだったら、また新しいイノベーションを起こせるのではないか。そういう期待をいだかせるイベントだった。


会場の横の目立たないところに、セッションごとにイラストでまとめを作成している人たちがいました。Graphic Recordingというようです。

2018/02/24

木島櫻谷展

木島櫻谷って、島崎藤村と同様、漫才コンビみたいですね、って失礼しました。

木島櫻谷は、「このしまおうこく」と読みます。

2月24日から泉屋博古館分館 (東京・六本木1丁目) で特別展「木島櫻谷」PartⅠ近代動物画の冒険が始まります。2月23日にそれに先立ち、ブロガー内覧会が行われました。ちなみに泉屋博古館は「せんおくはくこかん」と読みます。最初に挨拶された分館長の野地耕一郎氏が「イズミヤじゃないぞ」と強調されていました。

木島櫻谷という画家は、私は知りませんでした。実は4年前に展覧会を行なったところとても評判がよかったので、今年櫻谷の生誕140年に合わせて再度展覧会を企画したとのこと。今回Part I では、櫻谷の得意な動物画を中心に構成しています。「どうぶつのおうこく」 ... 失礼しました。

4月から行われるPartⅡのテーマは、"「四季連作屏風」+ 近代花鳥図屏風尽し" となっています。


ギャラリーで説明するのは、泉屋博古館 (京都) 学芸課長の実方葉子氏です。浅井忠の時にたっぷり説明していただいたのですが、今回はなるべく短くするように言われていたみたいです。今回は取り上げる数は全部ではなかったものの、作品ごとの説明は十分丁寧で、作品が好きなんだなということが実感できます。

櫻谷の描く動物は、写実的でありながら、人間的な表情を浮かべています。


《獅子虎図屏風》(1904)。ポスター作成にあたって右のライオンの目のあたりをトリミングしたところ、皆で「人間じゃんね」という感想になったとのこと。


この作品は《寒月》(1912)で、第6回文展出品作品。櫻谷は、文展の第1回から出品しており、第1回では最高賞を受賞しています。そしてこの作品でも最高賞を受賞しています。菱田春草らをライバルとして切磋琢磨していたということです。

この作品はモノクロームに見えますが、竹は様々な色彩を重ねて描かれており、右手の月の空はどう形容していいかわからない色調です。


この作品《かりくら》(1910) も同じく文展 (第4回) に出品されたもの。その後翌年のローマ万博で出品されて以降行方が分からなくなっていたとのことです。最近櫻谷文庫 (櫻谷が生前住んでいた家) で発見された時は、表装もされず、傷みが激しかったのを2年かけて修復したそうです。修復前の写真も作品のそばに展示してあります。

この作品は武士の絵なんですが、やはりこの馬に櫻谷の特徴をみてほしいということです。

スケッチや画材、道具の展示もあります。高価な日本画用絵の具がぎっしり詰まったトランクも出展されています。

京都市動物園に足繁く通ってスケッチをしていたそうで、今回新たに発見された京都市動物園の年間パスも展示されていました。当時年間パスという制度自体がなかったのでしょう、櫻谷専用に作られています。櫻谷に贈られた経緯はわかっていないそうです。

なお、写真は特別の許可をいただき撮影しました。

展覧会情報
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/program/index.html

展覧会名: 生誕140年記念特別展 木島櫻谷 PartⅠ 近代動物画の冒険 
主催: 公益財団法人 泉屋博古館/公益財団法人 櫻谷文庫/ BS フジ
会場: 住友コレクション 泉屋博古館分館 〒106-0032 東京都港区六本木1-5-1
会期: 2018年2月24日(土)- 4月8日(日)(月曜休館)
開館時間: 午前10時00分~午後5時00分(入館は4時30分まで)
入館料: 一般 800円(640円) / 学生600円(480円) / 中学生以下無料
     20名様以上の団体の方は(  )内の割引料金

2018/02/20

山本篤と千葉正也トーク

2月16日森美術館で、アーティスト2人山本篤と千葉正也のトークイベント
トークセッション MAMコレクション+MAMスクリーン「アーティストとアーティストについて語る」
が行われました。

山本篤は「MAMスクリーン007」で映像作品をずっと上映しており、千葉正也は「MAMコレクション006:物質と境界―ハンディウィルマン・サプトラ+千葉正也」で作品を展示しています。

今回のイベントは、「アーティストとアーティストについて語る」ということで、それぞれが相手と一緒に語るという形式です。一緒に山本篤のキュレーションを行った徳山拓一氏、ハンディウィルマン・サプトラ+千葉正也のキュレーションを行った熊倉晴子氏も参加しています。
第1部:19:00~20:00「山本篤の作品について千葉正也と語る」
第2部:20:00~21:00「千葉正也の作品について山本篤と語る」

しかし「山本篤の作品について千葉正也語る」というより「山本篤の作品について千葉正也語る」と言った方が良いような進行でした。そこがまた面白かった。というかこんなに笑えるトークは初めてでした。

お互い以前から親交があるとのことで、お互いをリスペクトしているのが分かります。しかし千葉正也のリスペクトのしかたはちょっと違います。山本篤の映像作品ははっきり言ってお馬鹿映像なんですが、それをそのまま「無駄に長い」とか、「 (アートスペース) オンゴーイングで無駄に尊敬されている」とか、「一番の駄作の作品を見ましょう」とか言っちゃいます。でも「無駄に長い」と言いながら、「最後まで見ると『やった、終わった』と思える。いいものを見たという感覚が残る」と言っています。『やった、終わった』も褒め言葉なんでしょうね。

実際お馬鹿映像なんだけど、真面目に馬鹿をやっているということが分かります。"Custom-made Street Funkiness" はヒップホップファッションの二人が、道で拾ったゴミをどんどん身体に貼り付けて行くもの。山本は、「ヒップホップカルチャーはよく知らないけど、身体にたくさん持ち物をつけて自慢する感じ」と語ります。千葉はそれに対して、「知らなくてよくここまで特徴を捉えている」とまたこれも褒め言葉。

私は紹介された中では、"Long Walk, Guts Poses" が好きです。サラリーマンふうの男性が、何かいいことがあったのか、歩きながらなんども小さくガッツポーズをする、だんだんポーズが大きくなって、上着もシャツも脱いだりする。

「無駄に長い」というように15分くらいの作品が多いのですが、今回「MAMスクリーン007」ではそれぞれ2分程度のダイジェストになっているそうです。長いものを何本も見ると時間がかかってしまいますから仕方ないのかもしれません。

一方、山本は千葉が学生時代から売れたことから入ります。素直に尊敬しているようです。山本のトークは、山本の千葉作品の解釈を真面目に話します。千葉の絵画作品には、白い石膏像が描かれているのですが、これはヘタウマ。絵画は上手いので、上手いばかりだと普通に上手い作品になってしまうので、その中に偶然性を入れるために石膏像を入れているということです。

山本によると、千葉は2つのギアを持っているとのこと、1つ目は誠実に絵画を描く世界、もう一つは、ストーリーを持ってそれを乱す自由な世界。貪欲にチャレンジする、ブレークスルーするためのアクションだと言います。

そのあとは山本から千葉への質問になり、対談のようになってきます。千葉は制作のアイデアが常にたくさんあり、10年くらい前のアイデアを作品化することも多いとのこと。今回の出展作品《2013年のパワフルヤングボーイ》も10年前のアイデアだそうです。昔遠野に「さすらい地蔵」というのお地蔵さんがあって、若い男性が投げるという風習があったのだが、今はもう固定されて設置されている。しかし移動することがそのお地蔵さんの本来の姿なら、森美術館に持ってきて展示をしようということになり、交渉するも叶わず、その経緯を含めた作品になっています。作品のそばにその企画書のようなドローイングも一緒に展示されています。

千葉の話で印象に残ったのは、アートとお金の話です。2002年頃、Penなどでアート特集があると、この作品はなんぼだとか常にお金の話がでる。一般向けの雑誌だったらまだ仕方がないところもあるが、若いアーティストもお金の話をしていて、それとは違う生き方をしたかったとのことです。やっぱり真面目なんですね。

「MAMコレクション006」では2点しか出ていないですが、もっとたくさん見てみたいと思いました。

Domani・明日展 20th

Domani・明日展は毎年ではないのですが、行ける時は行くようにしています。今年は20回記念だそうですね。おめでとうございます。

過去行ってブログを書いたのが、2010年2014年2017年。2016年も行ったはずですが、ブログには書いていませんでした。

毎回知らないアーティストが多いのですが、今年はこれまで見たことがあったアーティストとして、中谷ミチコ、西尾美也、やんツーがいました。

中谷ミチコは、今回最もいいなと思ったアーティストです。みたことがあるな、と思ったら、2011年に横浜美術館で行なわれた「中谷ミチコ展|境界線のありか」に行っていたのでした。会期中に東日本大震災があったのですね。

それ以外にも2011年のBankART LifeⅢ "新・港村"、2014年の東アジアの夢ーBankART Life4 に出ていたのですが、記憶に残っていません。

やんツーは、これまで2015年の21_21  Design Sight「動きのカガク展」、同じく2015年 NTTインターコミュニケーションセンター「オープン・スペース 2015」で見ていますが、いずれも菅野創との合作でした。あいちトリエンナーレ2016でも出ていたはずですが気づかなかったようです。また、2016年11月のメディア芸術祭 トーク「メディアアートとフェスティバル」でのトークを聴きました。

西尾美也は2017年Socially Engaged Art展で、やはり服を交換する作品を出していました。あいちトリエンナーレ2016でも服をたくさん吊るし、どれでも着れるという作品を出していました。

今回印象に残ったのは、雨宮庸介です。順番に見ていって、雨宮氏のエリアに入ると、雨宮氏が観客の前で話をしていました。アーティストトークをやってるんだ、と思って聞き始めたら、だんだん変な感じがしてきました。「みんなが同じ方向に走っていて、これは何ですかと聞こうと思ったら、みんな息を切らしていて、これは真剣なんだなと思って、自分も一緒に走りました」というようなプロットが繰り返し出てきて、あ、これはこういうパフォーマンスなんだなと理解しました。

本人はその場で制作を続けていて、声をかけるとパフォーマンスが始まるそうです。でも制作中のアーティストには、ちょっと声をかけにくいかもしれません。